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前村達矢のコラム
乳房炎について考える⑩

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2021年11月12日

 今回で乳房炎を引き起こす細菌の紹介シリーズは最後になります。ラストは無乳性連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)についてのお話です。

 この細菌は侵入経路の入り口である乳頭口を通過したあと、そこから近い乳管から徐々に広がっていきます。そして感染に伴って壊れた組織の破片や白血球の死骸が乳管を詰まらせてしまいます。結果として乳汁が乳腺胞や乳管内にとどまってしまうことにより、組織の瘢痕化につながっていきます。

感染が広範囲になると、乳を産生してくれる組織の多くが瘢痕化してしまうことで著しい乳汁生産の低下が起きてしまうのです。“無乳性”連鎖球菌という名前もこの病態からきているのだと思います。
 
 治療に関しては初期段階であれば治癒率は高いことが知られています。しかし、発見が遅れてしまったり不適切な治療によって感染が広範囲に広がってしまうと(多くの乳生産組織が瘢痕化すると)、その後の乳生産に悪影響が出てしまいます。
治療薬についてはペニシリンなどのβラクタム系抗生物質の乳房内治療薬が有効なことが多いようです。ただ、連鎖球菌の中でもStreptococcus uberisとよばれる細菌は、黄色ブドウ球菌と同様に乳腺の深部を好んで侵入してしまうため乳房内注入による治癒率は低いと考えられています。

 今回紹介した原因菌による乳房炎は初期の治癒率は高いものの対応が遅れるとまずいことになるものでした。対応としては、発見した日の乳汁培養による細菌同定、次の日にはどの抗生剤が有効かを確かめる薬剤感受性試験、そして発見から3日目に適切な抗生物質の投与の実施をするのが良いのではないかと考えています。

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