(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
前村達矢のコラム
乳房炎について考える⑨

コラム一覧に戻る

2021年11月5日

 今回はエーリキア・コリ(Escherichia coli、大腸菌などの呼称もあります)についてお話ししたいと思います。

 この細菌はグラム陰性菌であり、菌が死滅した際にエンドトキシン(LPS)といわれる毒素を産生することが知られています。この毒素の悪影響はとても強いもので他の原因菌に比べ、強い全身症状を伴い病態の進行も極めて早いため、乳汁培養による確定診断をする前(つまり、症状から大腸菌性乳房炎であると仮定して)の処置が必要となります。

 治療の基本方針は、まずは①強い炎症反応からの脱却。次に②炎症の原因であるエンドトキシンのコントロール。そして③エンドトキシンの由来である原因菌のコントロールが重要と考えています。以下具体的な処置例です。
① デキサメタゾンの投与や炎症性サイトカインの産生抑制の働きをもつ高張食塩水の投与
② 解毒の役割を持つ肝臓の働きを助けるウルソなどの強肝剤の投与
③ エンドトキシンの放出を抑えることのできるバイトリルやマルボシルなどキノロン系抗生物質の投与。(一方、細胞壁合成阻害作用を持ち投与により大量のエンドトキシンを放出してしまうβラクタム系の使用は避けたほうが好ましいです。)そして非常に重要なのが搾乳による細菌の直接排泄です。オキシトシンを投与して細菌を含んだ乳を外に出せるだけ出すことで治癒率は高まると考えられています。

 また、冷やした生理食塩水や高張食塩水にデキサメタゾンや抗生物質を混ぜて、乳房内に直接注入する乳房内洗浄という方法も非常に有効です。ほかにも脱水があれば輸液はもちろん必要ですし、目の充血がみられる場合にはDICに陥っている可能性があると判断しヘパリンの投与も行うことがあります。

 治療の方針として考えているのはこのあたりですが、近くの先生に話を聞くとまた違った方法を行っていたり対処法は他にもあるようです。熱い夏が過ぎて大腸菌性乳房炎の発生は落ち着きましたが、なにしろ重篤で進行の早い病気ですのでより良い方法で迅速に対応していけたらなあと思っています。

|