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前村達矢のコラム
乳房炎について考える⑧

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2021年10月29日

 今回からは乳房炎を引き起こす原因菌それぞれの特徴についてお話していきたいと思います。

 まずはスタフィロコッカス・アウレウスという細菌について。
 はじめに前回のコラムの復習になりますが、乳房内に細菌が侵入すると乳腺組織は瘢痕組織に置き換わってしまいます。今回お話する細菌の最も特徴的な感染様式もこの話と関係があるのです。

 スタフィロコッカス・アウレウスは乳頭口から侵入した後、乳頭管や乳管を傷つけながらどんどんと奥のほうに進んでいき、入り口から深いところの乳腺胞にたどり着きます。細菌が奥のほうの乳腺胞にまで侵入してしまったあとは、それを囲うようにして瘢痕組織が形成されていきます。この働きは感染をこれ以上広げないように細菌巣を1箇所にとどめることを目的としています。

 非常によくできている防御機構ですが、抗生剤の効き目を悪くしてしまっているという欠点でもあります。これは、抗生剤のターゲットである細菌巣が乳腺組織の奥のほうに侵入している、かつ瘢痕組織に囲まれてしまっているという理由からです。また、この防御機構も完璧というわけではなく、細菌の増殖が著しい場合には囲いきれずに別の乳腺胞に侵入してしまうこともあります。これがどんどんと進行すると治療も難しいうえに感染部位も広がってしまうという事態になってしまいます。

 このような理由からこの菌が起こす乳房炎は難治性といわれており、治癒率は30%以下との報告もありました。ただ全く対処ができないという訳ではなく、乳腺組織への移行に優れたタイロシンやペニシリン系・キノロン系の抗生剤は有効と考えられています。治療についての詳しい話は長くなるので別の機会にまとめたいと思います。

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