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笹崎直哉のコラム
生後1週間以内を目安にチェックしたいこと その2

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2021年10月26日

 前回は生後1週間以内に「肋骨」と「臍」の状態を確認しましょうとお伝えしました。そこで今回は「肋骨骨折」に関して私の実体験を含め詳しく紹介していこうと思います。
 肋骨骨折は自然分娩での発生はあまりなく、難産による発生が多いです。したがって私は難産で呼ばれ胎子を娩出させた際には必ず肋骨を触診するよう意識しています。

胎子が自然に娩出(自然分娩)される条件として
① 胎子を圧し出すための子宮収縮(陣痛)があること
② 産道(骨盤腔)が胎子の通過に十分な広さになっていること
③ 正常な姿勢で産道に進入してくること

 この3つが大きなポイントになります。しかし助産処置をしっかり行っても②の条件が満たされない場合があると、結果的に胎子が産道を通過するとき胸部を圧迫させてしまい肋骨骨折を招きかねません。経産牛であれば産道にある程度の広さがあるので安心ですが、年齢が若い初産牛は産道が狭いケースが多いので特に注意が必要です。また発育が不十分な段階で交配が行われ、妊娠した牛さんの場合は骨盤腔が狭小になっているケースが非常に多いです。さらに分娩前に過肥(太っている)牛さんは産道周囲の脂肪の蓄積によって産道が狭くなっていることがあるので注意が必要です。

 それと個人的な意見ですが逆子(胎勢が尾位のもの)で難産の場合は肋骨骨折の発生リスクが少し高くなるように思います。逆子は胎子の臍が切れてしまうことを考えると、産道に胎子がのったら可能な限りスムーズに娩出させたいということ、産道が胎子の通過に十分な広さになっているかの確認が少し難しいことから、うっかり胸部圧迫させてしまうことがあります。
 私は産道マッサージなどの処置をしっかり行っていても「やはり産道が狭い、これでは娩出に無理がある」と判断した際、産道の広さの程度に応じて陰部(会陰)切開の実施や経腟分娩を諦めて帝王切開を選択するようにしています。

 分娩時の無理な胎子の牽引は母子ともに痛めてしまうケースが多いので、慎重な判断が重要になってきます。

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