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前村達矢のコラム
乳房炎について考える⑥

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2021年10月15日

 ここまで乳房炎に対する感染防御の仕組みとして、病原体が侵入する入り口となる乳頭管そして乳汁中に含まれる白血球の上昇についてお話してきました。その他にも乳汁中に含まれる酵素系やラクトフェリンと呼ばれるタンパク質なども、乳房で産生あるいは血液から滲出され感染防御に働くことが分かっています。

 これらの優れた仕組みが備わっているにも関わらず、乳房炎の発症を防ぐのは中々難しいと思います。ところで、感染が起きてしまう可能性が最も高い時期を皆さんご存知でしょうか?私が日々診療する中では特に分娩前後が多いなあという意識を持っていたのですが、最も感染リスクが高いのは乾乳後2週間つまり乾乳初期だそうです。ちなみに次に多いのは分娩前2週間と言われています。

 では、どうしてこの2つの時期に感染リスクが高いのでしょうか。
 まず乾乳初期の感染リスクが高いことには次の理由があります。
 ・乳頭口でのケラチン充填が不完全
 ・乳頭管からの乳汁の流出が止まり、細菌を外に排出できない
 ・乳房にかかる圧力で乳頭管が拡張してしまう
 ・搾乳中の洗浄が継続されない事で、乳頭皮膚の細菌増殖を招いてしまう
 ・乳汁成分の影響で白血球による細菌貪食機能が減少する可能性がある。

 また、分娩前2週間の発症リスクが高いことには次の理由があります。
 ・分娩が近づき乳房が張ってくることで乳頭口の弛緩
 ・酵素系やラクトフェリン濃度の低下
 ・分娩前のストレス
 ・初乳成分の蓄積による白血球の機能低下

 非常に発生率の高い乳房炎ですが、まずは自分の農場ではどの時期に発症が多いのか、そして感染はなぜ起きているのかを考え対策を練っていくことも重要ですね。

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