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藤田真千子のコラム
No.5 分娩前の牛の食欲低下③

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2021年10月14日

血検結果では、低Ca血症と軽度の低Mg血症であることがわかりました。
食欲低下の主な原因は低Ca血症であると考えられましたが、なぜ低Caになったのか考えてみようと思います。

<生体中のカルシウムの役割>
生体中のCaは骨格・歯の構成成分であり、筋肉の収縮にも不可欠です(低Caの影響は筋肉細胞内のCaイオン蓄積量が少ない平滑筋で、骨格筋よりも発現しやすい)。そのほか神経の興奮の調節、ホルモン分泌、血液凝固などの多くの機能に関与しており、Ca濃度の変動は生体の活動に大きく影響します。このため、血液中のCa濃度を一定に保つための強力な制御系が働いており、基準値からの逸脱は見逃せない異常となります。

<低カルシウム血症>
分娩前の急速な胎子発育や泌乳によるCa要求量増加に対応できなかった場合に、分娩前後の低Ca血症が起こります。発症リスクを上げるものには以下のものが挙げられます(図)。

・加齢:高齢になると骨からのCa動員が低下し、消化管からのCa吸収も低下する
・給与飼料中のCa不足:骨のCa蓄積量の不足
・ビタミンD不足:給与飼料中のビタミンDの不足、紫外線不足による皮膚でのビタミンD産生低下
・給与飼料中のMg不足:PTH(パラソルモン,上皮小体ホルモン)活性の低下(PTHは血中Ca濃度を増加させる)
・給与飼料中の陽イオン(K、Naなど)の過給:上皮小体の機能低下、Kの過給はミネラル間の拮抗的な働きによりCa、Mgの吸収阻害となる
・分娩直前からの食欲低下:Ca摂取量の抑制、腸管運動抑制によるCa吸収の低下

本症例では詳しく原因追及できていないのでどれも可能性を否定できませんが、この農家さんでは低カルシウム血症は稀なので、7歳と高齢であること、病畜のいた場所が薄暗く紫外線不足であったことなどが重なり発症したのではないかと考えました。

Mg代謝はCa代謝と密接な関係にあり、PTHの活性化などを介し骨の代謝に関わっています。重度の低Mg血症(グラステタニー)を発症した場合、多くの症例で低Ca血症も併発しているようです。今回確認された低Mgも低Caに関係していることが考えられます。
 
 
長くなりましたが、この牛は発症から7日後、陣痛微弱で難産介助になったものの無事分娩を終えました。食欲が戻ったといっても、分娩するまでは注意して観察する必要がありますね。
 
 
今週の動画「Knee Boil operation ( part 2 ) 膝瘤の手術(その2)」

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