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前村達矢のコラム
乳房炎について考える④

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2021年10月1日

 前回までのコラムでは乳房の構造をメインにお話してきました。今回からはその構造の中で牛と病原体でどのような攻防が繰り広げられているのかについてお話させて頂きたいと思います。

 まずは牛側の防御について、乳頭管の仕組みを紹介したいと思います。この構造は病原体が牛の体内に入り込む際の第一の障壁となり、感染防御に非常に重要な役割を持っています。例えば賃貸を借りるときには、オートロックなど入口のセキュリティがしっかりしてる程安心できますし、芸能人の家はとても厳重なイメージがありますよね(私の学生時代の家は大学近くの1階のため通いやすかったのでしょう、よく友人達に荒らされたものです、、)
 具体的にどのような仕組みが乳頭管に備わっているかというと、ケラチンと呼ばれる栓のような物質と乳頭括約筋と呼ばれる栓の密閉を強める構造の2つが備わっています。

 ケラチンは、乳頭管を覆う細胞がはがれ落ちることによって形成される物理的な障壁であり、なんとそれ自体も抗菌活性の働きを持っているそうです(本当によく出来ていて、ほんとか?と疑ってしまうくらいです)。搾乳時には栓であるケラチンは外に押し出され、搾乳後しばらくすると乳頭管を覆う細胞がはがれることによって再び病原体の侵入を予防する事ができます。
 一方、栓の密閉を強める働きをもつ乳頭括約筋は、その名の通り筋肉であるので収縮や弛緩により乳の分泌をコントロールしています。まれに漏乳といって外からの刺激がないときでも乳が漏れている牛がいるかと思いますが、このような牛ではこの乳頭括約筋の収縮が弱くなっていると考えられます。見かけた場合には低カルシウム血症の疑いや乳房炎発症のリスクが高まっているので注意が必要ですね。

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