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笹崎直哉のコラム
過肥について考える その7

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2021年8月17日

 前回は脂肪肝のお話に触れました。脂肪肝について調べていくと、どうやら肉用牛よりか乳用牛で発生が多いようです。乳用牛で特に脂肪肝の発生が多い時期は周産期です。分娩前約2週間の牛さんでは、胎子の急速な発育と分娩に備えた母牛自身の体力維持のためにエネルギーが必要なうえに、分娩後には乳生産(泌乳)でエネルギーの必要量が急速に増えます。

 そうなると、母牛はエネルギーを作るため沢山飼料をたべてエネルギーを蓄えなければならないのに、周産期は分娩ストレス等もあり、なかなか食欲が上がらず要求量を満たすだけのエネルギーを摂取することができなくなってしまいます。この状態を負のエネルギーバランスといいます。とくに肥満牛(過肥牛)では妊娠子宮と著しく増えた脂肪組織のために腹腔内容積が狭く、飼料の摂取量が制限されやすいため、負のエネルギーバランスは悪化する一方です。ここで私は昔、「負のエネルギーバランスになってしまうなら、エネルギーの収支バランスをみて、分娩後の泌乳量を落とすように対応できないのかな?」と疑問に思っていました。実は乳腺では負のエネルギーバランスであっても、泌乳促進に働くホルモン群の作用が優勢であり、グルコースやアミノ酸の取り込みはインスリンの支配をほとんど受けません。なので乳用牛は脂肪組織、肝臓、骨格筋などの代謝を変化させて、グルコースやアミノ酸の産生量を増加させるとともに、母牛自身はそれらの利用をなるべく節約し、代替エネルギー源であるケトン体を上手く利用して負のエネルギーバランス状態に対処しています。

 う~ん、、、周産期は母牛にとって、過酷な時期であることが分かりましたね。もちろんすべての母牛がこの状況に対して、上手く耐えられるわけではありません。いろいろな原因で負のエネルギーバランスに上手く適応できなくなると、ケトーシスや脂肪肝が発生することになります。

つづく

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