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江頭潤将のコラム
No.44 家畜の改良技術 その31 OPU編

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2021年8月6日

○媒精その4
 卵子の透明帯に到達した精子はアクロシンのタンパク質分解作用とハイパーアクチベーションによる推進運動によって透明帯を通過します。透明帯を通過すると、透明帯と卵細胞膜の間の空間である囲卵腔(いらんくう)に出ます(図1)。そして、精子頭部の細胞膜と卵細胞膜が融合し精子が卵細胞内に取り込まれます。


図1

 卵子に取り込まれる精子は1つのみですが、1つの精子しか受精できないような仕組みが卵子には備わっています。少し細かい話になってしまいますが、卵細胞の表面近くには表層顆粒というものが存在します(図2)。最初の精子が卵細胞と融合したときにこの表層顆粒内部に含まれる酵素が遊離され、その働きで透明帯に変化が起きるのですが、その変化を「透明帯反応」といいます。透明帯反応よって、2番手以降の余剰な精子の結合及び侵入は阻止され卵子と受精することができなくなります。また、卵細胞膜自体の性質も変化する「卵黄遮断」という現象も起こり、精子が卵細胞膜と融合できなくなります。この2つの機構が働くことにより、2つ以上の精子が受精(多精子受精と言います)しないようになっています。悲しい現実ですが、精子の世界も2番じゃダメなんですね。


図2

 この多精子侵入阻止機構がうまく働かなかったり、媒精時の精子濃度が高すぎたりすると多精子受精となることがあり発生率が低下します。また、体外受精時に高温に暴露すると多精子受精が増えることが分かっており、その後の発生率も低くなります。これは暑熱ストレスを受けている生体内でも同じようなことが起きていることを示唆しています。
 
 受精が成立すると次は発生というステージに移っていきます。

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