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江頭潤将のコラム
No.43 家畜の改良技術 その30 OPU編

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2021年7月31日

○媒精その3(精子の先っちょの話)
 卵子を見つけた精子はすぐに受精できるわけではなく、卵子の周りに「卵丘細胞」と「透明帯」という2つの壁が立ちはだかっています。
 まず1つ目の卵丘細胞ですが、成熟卵子ではこの卵丘細胞が膨化しておりヒアルロン酸という物質が含まれています。

 ヒアルロン酸は粘稠性があるので、この壁を突破するためには精子はヒアルロン酸を分解しながら進んでいかなければいけません。そのため、精子は頭部からヒアルロニダーゼというヒアルロン酸を溶かす酵素を放出しながら卵丘細胞層を通過していきます。この際、1つの精子が単独で卵丘細胞層を通過できるわけではなく、卵子まで到達するためには複数の精子が必要と言われています。ですので、媒精の際は受精能を有した活発な精子が一定の濃度必要となります。媒精はまさに1つの卵子に群がるたくさんの精子達といった様子で、協力?しながら卵丘細胞層を突破していきます(といっても最後に卵子をゲットできるのはただ1つの精子だけです)。
 卵丘細胞層を突破した精子を次に待ち受けているのが透明帯という卵子の殻です。

 透明帯は糖タンパク質でできており、ここを通過するためには精子頭部の先体に含まれているアクロシンというタンパク質分解酵素が重要な働きをします。精子が透明帯に到達し、精子頭部が透明帯に接触すると先体反応という現象が起こり、先体から酵素が放出されます。アクロシンが透明帯を軟化させて通過を容易にするだけでなく、精子自体の運動性も変化していきます。通常、精子の運動は直線的ですが(子宮や卵管を進むためには直線的な運動が必要)、受精能を獲得した精子は代謝活性が高くなり尾部と呼ばれる“精子のしっぽ”を激しく動かしながら活発に運動するようになり、これをハイパーアクチベーションと言います。この運動様式によって透明帯をさらに突き進んでいきます。

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