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笹崎直哉のコラム
真夏の帝王切開

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2021年7月27日

 ハエが増えてきました。先日農場近くの草むらを覗いてみるとハエが沢山葉にとまっていて驚きました。おそらく血を吸い終わり、休憩中のサシバエだったのでしょう。

 サシバエはもともと草地に住んでいるので、牛舎周囲の草刈りをすることで発生を減らすことができます。発生が多い農場は牛さんにストレスがかかったり、稀にアレルギーのような症状出たりすることもあります。ただでさえ暑熱ストレスがあるのに、サシバエに刺されるとなると牛さんも大変です。夏場は特にですが、少しでも快適な牛舎にできるよう意識したいですね。

 さて先日とある農家さんで難産で呼ばれたのですが、産道に手を入れて胎子の状態をチェックすると足が4本あったので、失位か双胎を疑い整復をはじめました。しかしながらどう操作しても整復できず、胎子は念入りにチェックしても1頭のみでした。あれやこれやと操作している中、ついにとある異変に気づきました。後肢の球節が変形性関節症のように通常みられないような方向に屈曲していたのです。とっさに「奇形子かもしれない」と思い、帝王切開を判断しました。まだ胎子は生きていたので早急に加地獣医師と準備を進め、蒸し暑さの中「熱中症になりませんように」と祈りつつ手術をはじめました。
 結果娩出された胎子はやはり奇形子でした。しかも見るも無惨な姿をしていました。胎子は反転性裂体といって腹壁破裂、腰椎から右方に極端に彎曲、関節彎曲症を伴い腹部や胸部臓器が体外に脱出した状態になっていました。娩出後しばらくバイタルがありましたが、数分後亡くなってしまいました。反転性裂体なかなか遭遇しない稀な症例です。私は今回を含め2例経験しましたが、前回も経膣分娩不可となり帝王切開にて胎子を娩出しました。原因不明なので、予防に徹することができませんが幸いなことにお母さん牛は術後も問題なく元気なので、それだけでも何よりです。

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