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江頭潤将のコラム
No.39 家畜の改良技術 その29 OPU編

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2021年6月25日

〇媒精その2
 シャーレの中の精子のプールに卵子が飛び込むと、近くにいる精子たちは受精するために卵子に向かって泳ぎはじめます。眼も鼻も耳もない精子がどのようにして卵子を探し出すのでしょうか。

 生体の中では受精というイベントのために精子は注入された場所から卵子が待つ卵管まで果てしない距離を泳がなければいけません(精子自身の1万倍以上の距離だそうです)。精子が泳ぐことを遊走というのですが、精子は闇雲に泳いでいるわけではないようです。精子には走温性(温かい方に泳ぐ)、走流性(レオタキシス:流れに逆らって泳ぐ)、走化性(ケモタキシス:特定の化学物質の濃度が高い方に泳ぐ)といった特徴があり、注入部位(人工授精であれば子宮体部、本交であれば腟深部)から卵管まで遊走するために哺乳類ではレオタキシスが関与していることが報告されています。つまり、卵管から子宮へは液体の流れがあり、精子はその流れに逆らって泳いでいるというわけです。また、子宮内での精子輸送には平滑筋やケモカインが関与していることも報告されています。それぞれの特性から考えられることは、誘導精度は低いが長距離輸送にはレオタキシス、誘導精度が高く短距離輸送はケモタキシスが有効であることです。

 話をシャーレの中に戻します。成熟卵子は受精するために自身の場所を精子に伝える必要があります。シャーレは卵管を再現していると前回書きましたが、ここでは卵子と精子の距離は比較的近く、また、より正確に誘導する必要があるのでケモタキシスが重要となります。そのため、卵子は化学物質を放出して精子はそのシグナルを受け取って卵子に向かって泳いでいくことができると考えられます。そのシグナル物質について候補因子が近年ウシでも報告されているようですが、精子誘引物質について研究が進んでいるのがウニやホヤだそうで哺乳類はまだまだ分からないことが多いみたいでした。
 さて、やっと卵子の居場所を特定できた精子たちですが、受精のためにはさらなる大きな壁が立ちはだかっています…

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