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江頭潤将のコラム
No.38 家畜の改良技術 その28 OPU編

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2021年6月18日

〇媒精その1
 だいぶ間が空いてしまいましたが体外受精(IVF)について紹介します。受精は生体内では子宮の先にある卵管という細い管のなかでも卵管膨大部というところで精子と卵子が出会って起こりますが、IVFではこれをシャーレの中で再現します。シャーレの中に精子が含まれている媒精培地を作成し、この中に成熟卵子を入れることにより受精させます。

 牛の媒精培地はBO液(Brackettと Oliphantが1975年に報告したBrackett & Oliphant液、略してBO液)というものが基礎となっています。通常、IVFには人工授精用の凍結精液を使用しますが、凍結精液には耐凍剤であるグリセリンや細胞膜保護などのために卵黄などの他、死滅した精子も含まれています。これらの成分はIVFには不要なものであるため、生存している精子のみを選別する作業と余分な成分を除去するための洗浄処理を行います。そうすることでほぼ生存精子だけのきれいな媒精培地を作成することができます。また、この処理には精子に受精能獲得(キャパシテーション)という重要な機能的変化を引き起こす役割があります。受精能獲得が起きなければ精子は卵子と受精することができません。

 一例ですが、媒精するときの精子濃度は300万/mlにしていました。この媒精培地に卵子を入れると、卵子に群がるたくさんの精子を観察することができます。僕はこれを見ながら、「お~、みんな健気に頑張っているな~」と生命の神秘を感じていました。

続く

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