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江頭潤将のコラム
No.33 家畜の改良技術 その26 OPU編

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2021年5月14日

〇体内成熟OPUのメリット
 手間のかかる体内成熟OPUですが、そこまでしてやるからには理由があります。1つはFSHを投与することにより卵胞が大きくなるので採取卵子数の増加や回収率の向上があげられます。2つ目に卵子の品質が向上するので発生能が高いことです。すなわち、単純に1回のOPUで比較すると、通常のOPUよりも体内成熟OPUの方が採取される卵子の数が増え、生産できる移植可能胚が増えるということです。体内成熟OPUについてはいろいろと報告されていますのでいくつかリンクを貼っておきます。
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/nilgs/2013/
nilgs13_s21.html

https://www.jstage.jst.go.jp/article/chikusan/87/2/87_107/_pdf
https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H28/
chikusan/H28chikusan009.pdf

 私も体内成熟OPUに関して研究したことがありますが、体内で成熟した卵子と体外で成熟した卵子の違いとして以下のようなものがありました。
・体内成熟OPUでは1度に生産できる移植可能胚が増える
・体内成熟卵は体外成熟卵よりも異常卵割が少ない
・体内成熟卵は体外成熟卵よりも表層顆粒の分布パターンが正常である割合が高い(細胞表層に均一に分布)
・体内成熟卵でも体外成熟卵でも、最終的に正常に発生した胚(受精卵)を新鮮胚移植した場合の受胎率に差はない

 この結果を見て、成熟培養に使用している成熟培地(少なくとも私が使用していたもの)はまだまだ改良の余地があると感じました。複数種類の成熟培地を試験したわけではありませんが、この実験で使用した培地は日本で一般的に使用されているものでした。機会があれば培地の改良にもチャレンジしたいと思っています。

 ここまで体内成熟OPUのメリットをあげてきましたが、もちろんデメリットもあります。まず、ホルモン処置が必要になるので、隔週または毎週OPUできるという通常のOPUのメリットが活かせません。また、妊娠牛でも実施できません。以前のコラムで紹介したようにすごく手間がかかるので一度に実施できる頭数が少なくなってしまいます。
 様々な技術がある中で、どれが一番いいのかということは一概には言えません。どのような牛に、どのような目的で、どのような技術を使用するのか。メリット、デメリット、費用対効果などを考慮しながら選択していく必要があると思います。

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