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江頭潤将のコラム
No.30 家畜の改良技術 その24 OPU編

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2021年4月16日

〇体外成熟培養
 前回、通常のOPUでは未成熟な卵子を採取することをお話ししました。未成熟な卵子を成熟させるためには体外成熟培養(in vitro maturation:IVM)を行う必要があります。

 生体卵巣から吸引された卵子は卵胞液や血液とともに採取されます。体外で培養するためにはこの卵胞液や血液は余分な成分ですので取り除かなくてはいけません。そのためにまずはフィルターを使って卵子をろ過します。ろ過した後は卵子検索用のシャーレに移して顕微鏡下で卵子を探します。この時点ではシャーレの中に細胞片などの夾雑物がたくさん含まれていますので、見つけた卵子は取り出してあげて洗浄用の溶液が入ったシャーレの中に移します。この作業を検索用シャーレから卵子が出てこなくなるまで繰り返します。すべての卵子を洗浄用のシャーレに移したらここで卵子のランク分けを行い、成熟培養(IVM)する卵子とそうではない卵子に分けます。IVMを行う卵子は事前に用意しておいた成熟培地に移して、インキュベーターという温度や湿度、CO2濃度が一定に保たれた機械の中で培養されます。
 IVMに用いる培地は組成の違いでいろいろありますが、私が使用していたものはMedium 199という培地を基礎とし、FSHと血清を添加したものです。IVMの時間は22時間前後行っていました。使用する培地の組成や培養方法は施設によって微妙に異なることがあります。IVMで言うと、ホルモンや血清の添加の有無などです。


画像1


画像2

 画像1は成熟培養する前の卵子、画像2は成熟培養した後の卵子です。卵子の周りに付着した卵丘細胞がIVM後にはボワーッと膨らんでいるのがお分かりになるかと思います(卵丘膨化といいます)。これは卵丘細胞の間隙にヒアルロン酸が蓄積されることで起こります。ヒアルロン酸の役割としては卵子の支持体として働く、卵子成熟の開始に必要である、異常精子が侵入しないためのバリアーとなる等が考えられています。IVM後この膨化がきれいに起きていたときは、よし、今回もうまく成熟したな、と思いながら観察していました。卵子が成熟したかどうか判断するための手段として極体(Polar body:PB)を観察する方法もあります。GV期からMⅡ期に成熟するときに卵子は減数分裂を行いますが、このとき極体という細胞を放出します。この極体を観察することができればその卵子は成熟しているものとみなします。
 ちなみに精子の頭部の先っちょの先体という部分にはタンパク質分解酵素であるヒアルロニダーゼとアクロシンという物質が含まれています。なぜ精子はタンパク質を分解するための酵素を持つ必要があるのでしょうか。しかも先っちょに。この辺りは体外受精のところで考えてみたいと思います。

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