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江頭潤将のコラム
No.29 家畜の改良技術 その23 OPU編

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2021年4月9日

〇未成熟卵子と成熟卵子
 前回卵子の採取とランク分けまで説明しました。通常のOPUでは未成熟卵子が採取されます。未成熟な卵子とはどういう状態なのでしょうか。

 卵巣の中には原始卵胞(中には一次卵母細胞が存在)という将来的に成熟し主席卵胞になる能力を有する、いわば卵胞の赤ちゃんが大量にストックされています。一次卵母細胞の前段階の細胞を卵祖細胞といいますが、卵祖細胞は胎子のときに全て作られてしまうので、このストックの数は出生時点で決まっています。このストックの数の違い(=個体差)が卵胞ウェーブで観察される卵胞数の違いとして現れ、結果的に採卵結果にも影響されると考えられています。つまり、ストック数が少ない牛は採卵やOPUでも採取できる数が少なくなる可能性が高いということです。

 原始卵胞は一次卵胞→二次卵胞→胞状卵胞と発育していきますが(エコーで映るのは胞状卵胞から)、OPUで吸引するのはこの胞状卵胞です。胞状卵胞の中には一次卵母細胞が存在しますが、胞状卵胞が選抜されて主席卵胞となり排卵されるときには二次卵母細胞(減数分裂して極体を放出する)に発育しています。この一次卵母細胞を未成熟な卵子、二次卵母細胞を成熟した卵子と一般的に呼んでいます。もうちょっと詳しく言うと、未成熟な卵子は第一減数分裂前期(germinal vesicle:GV期)の卵母細胞です。採取された未成熟卵子はそのままでは受精能を有していないため、体外で成熟培養を行って成熟させてあげる必要があります。成熟した卵子は第二減数分裂中期(Metaphase II :MⅡ期)と言い、ここでやっと受精が可能となり精子を受け入れることができるようになります。ちなみに、排卵するときの卵子もこの時期のものです。OPUを実施した後に1日程度成熟培養を行う必要があるのはこのためです。

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