(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
蓮沼浩のコラム
第659話:治療前の大事なこと

コラム一覧に戻る

2021年3月25日

 桜の花も咲き、木の芽も芽吹いています。小生のとても好きな季節になってきました。とにかく仕事以外にもやることが非常に多くなってきたので、春の陽気にやられず隙間時間の活用など時間管理の徹底に努めていきたいと思います。

 ユーチューブの動画で採血についていろいろ紹介していますが、この動画をとるにあたり、大事なことを再確認いたしました。牛さんの治療をするうえで非常に重要なことだと思うので是非参考にしてみてください。

■ とにかく牛さんを怖がらせない

 一番の基本は牛さんを捕まえるときも、保定するときも、診察するときも、とにかく怖がらせないことです。ゆっくり近づいて、やさしく声をかけ、なでてあげたりしながら丁寧に診療を行うこと。これは大学でも教わる非常に重要な点ですが、現場では忘れ去られている事例が多々あるように思います。虐待とおもわれるような事例もあります。一度暴力に手をだすと、知らないうちに牛さんに暴力をふるうことが当たり前のような状態になってしまいます。そして周りの人にもこのような傾向が連鎖します。絶対に戒めなくてはいけません。

■ ファーストコンタクトを大切に

 治療する牛さんに最初に対峙した時に、大体その牛さんの気質はわかります。少し近づいた時の反応、触った時の動き、目を見た時の挙動。治療に入る前にしっかりとこの牛さんの気質を把握しておくことは非常に重要になります。襲ってくる牛さんもいるかもしれません。しかし、そのような時は捕まえる方法を変えたり、保定の方法をきつくしたり、何人かのスタッフで対応したり事前に牛さんの行動を予測して、その状態に合わせて準備をしてから取り組めばよいのです。けっして暴れるからといって暴力で押さえつけようとしてはいけません。

■ 急がば回れ

 採血や血管注射をするときに、一つの方法に固執してしまい、うまく処置ができずに大騒ぎになってしまっている状況があります。この点も非常に重要なポイントです。一つの方法でうまくいかないのならば、すぐに仕切り直しをすることが重要です。採血で言えば、普通の鼻保定でうまいくいかない場合はすぐに首をだして採血する方向にシフト。うまく首を出せない場合は尾静脈からの採血に変更。もしくはすぐにサフィードチューブを準備して対処するなどなど。これは他の処置をする場合も同じです。例えば帝王切開で術中に母牛の努責が強くなったときはすぐに手術を一度止めて経腟で胎児を子宮内に深く押し込み、尾椎麻酔を投与したり、子宮弛緩剤の投与をしたりするなどなど。予定と違う事態になった時に、そのまま無理に突っ走るのではなく、冷静に次の手段をとれるようにすることは非常に重要なテクニックです。

■ アイコンタクトの重要性

 これも何度か書いているかもしれませんが、牛さんの目をみることは非常に重要です。ほんの少しかもしれませんが、目で意思疎通が出来るのではないかと実は小生は思っています。彼らの目の状態から何を読み取ることが出来るのか。治療する前に牛さんの目を意識して見るようにしてみてはいかがでしょうか。意外な発見があるかもしれませんよ。小生は治療に入るときに必ずアイコンタクトをして牛さんに挨拶をしてから診察に入ります。相手はなんと思っているかはわかりません。怖いおっさんが来たとしか思ってないかもしれませんけど・・・。
 もちろん、目だけでなく全身の状態をみることも重要です。さらには飼われている環境、飼槽の状態、エサの状態、牛床の状態、農家さんの気質など何度も話していますが、見ることは非常に重要です。

今週の動画「Blood sampling Part 5  採血(その5)」

|