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江頭潤将のコラム
No.26 家畜の改良技術 その21 OPU編

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2021年3月12日

○生きている動物から卵子を採取する技術
 今回からOPUという技術の中身を見ていきます。OPUは日本語で生体内卵子吸引や経腟採卵と呼ばれるくらいですので、生きている動物(今回は牛)から卵子を採取する技術です。受精卵を採取する採胚とはこの点で異なります。生きている牛からどのようにして卵子を採取するのでしょうか。

 当たり前ですが、卵巣は牛の腹腔内にありますのでそのままでは目視することができません。また、穿刺する卵胞は小さいものだと2mm前後ですので可視化する必要があります。闇雲に卵巣に針を刺しても卵子は採取することが困難です。だからといって開腹するのは牛への侵襲が大きく現実的ではありません。
 そこで使用するのが超音波画像診断装置(エコー)です。エコーで卵巣を画面上に描出することで、小さな卵胞までくっきりと映し出すことができ、狙った卵胞に針を刺すことができるようになります。

 次に卵巣の中の小さな卵胞に針を刺す方法を考えます。卵巣は腹腔内で支持組織によって緩く固定されているだけで比較的自由に動くことができるようになっています。卵巣に針を刺すにはしっかりと固定してぶれないようにする必要がありますが、幸い、牛では経直腸的に用手で卵巣を保持することができます。あとは卵巣をエコーのプローブに押し当てて卵胞めがけて針を刺すだけです。
 この「卵巣を用手で保持しプローブの先端に押し当てたまま卵胞に針を刺す」という作業を行うためには、一般的な直腸検査で使用するようなプローブではなく、OPU専用のプローブが必要になってきます。OPU用プローブの例は次のリンクのようなものです。
http://medical-taskforce.com/item/details17.html
https://www.imv-imaging.com/international/products/veterinary-ultrasound/ovum-pick-up-opu/
 細長い形をしているのが特徴で、この先端から超音波が出るようになっています。細長い形をしているのは、このプローブを牛の腟に入れて使用するからです。腟から入れたプローブの先端に直腸から入れた手で保持した卵巣を押し当てます。また、プローブの先端には穴が空いており、その穴から針が出るような仕組みになっています。
 プローブの先端に卵巣を固定できたら、エコーの画面を見ながら卵巣を微妙に動かして針が出てくる位置に狙った卵胞を移動させ針を刺して卵子を吸引していきます。

 ちなみに、この方法が牛に対して侵襲性が全く無いかというとそうではありません。もちろん卵巣に針を刺しますし、腟にいれたプローブから針が出てきますので針は腟壁を貫通します。しかし、2週間に1回OPUを実施されている施設でも特に問題は起きていないようですし、週に2回、4週連続でOPUしても卵巣の癒着等の問題はなかったという報告もあります。現在ではこのようなOPU法が一般的に行われています。

 言葉で説明するのが難しいので動画をお見せしたいところですが、まだ撮影ができていません。撮れたらそのうち載せたいと思います!

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