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江頭潤将のコラム
No.25 家畜の改良技術 その20 OPU編

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2021年3月5日

○移植胚の生産方法
 胚の生産方法は主に3つあります。

 ①過剰排卵処理と人工授精による体内胚生産
 ②生体内卵子吸引と体外受精による体外胚生産
 ③屠畜由来卵巣を用いた体外胚生産

 ①は一般的に「採卵」と呼ばれているものです。通常1個しか排卵されない牛の卵子をFSHというホルモン剤を投与することにより人為的に多数排卵させます。そこに人工授精を行い、7日後に子宮を還流して胚を採取します。発情同期化したレシピエント牛(借り腹牛)を用意しておいて同日に胚を移植したり、余剰卵は凍結保存したりします。このような方法をMOET(Multiple ovulation and embryo transfer)ともいいます。写真1は通常の卵巣、写真2は過剰排卵処理した卵巣です。


写真1


写真2

 前後しますが③は雌の肥育牛や経産牛が屠畜されるときに手に入る卵巣を資源として利用します。卵巣にある卵胞に注射針を刺して中にある卵子を吸引します。吸引した卵子はいくつかの処理をして最終的には(拡張)胚盤胞という移植ができる状態まで発生させます。(卵子の処理については今後のコラムで説明します。)

 ②が今回のテーマであるOPUを利用した胚の生産方法です。OPUはOvum Pick Upの略で日本語では生体内卵子吸引や経腟採卵と呼ばれています。③では屠畜された牛の卵巣から卵子を採取しますが、OPUでは生きたままの牛の卵巣に針を刺して卵子を採取します。採取した卵子の処理は③とほとんど同じです。

 ②と③の大きな違いの一つは生産された子牛が登記できるかできないかです。OPUはドナー牛を供卵牛として登録しておけば登記可能です。屠畜由来卵巣の場合、基本的に子牛登記しかされていない雌肥育牛から胚を生産することになりますので、その胚を移植して生まれた子牛は子牛登記することができません。厳密には必要な手続きを経ることで屠畜由来卵巣からも登記可能胚を生産することが可能です。以前実施したことがありますが、けっこう煩雑な手続きでした。

 次回からやっと実際のOPUについて見ていきます。

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