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蓮沼浩のコラム
第652話:臍動脈閉鎖不全 その3

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2021年1月28日

 最近「視診」や「望診」に凝っています。牛さんだけでなく、環境や農家さんも含めて。無意識に行っているこれらの診察を、これからは最重要ポイントと位置づけて、今まで以上に意識しながらやっていきたいと思います。
 
 先日早朝急患がありました。江頭先生が牧場に急いで行ってくれたのですが、到着時には瀕死。血管確保して補液を始めようとしたら、死亡してしまいました。体温はLowと出てしまい計測不能。脱水が進んでおり、徐脈。結膜を確認すると重度の貧血。この子牛は生後2日目の黒毛和種の雄。生まれた時は大きな問題もなく、初乳もしっかりと飲んでいます。血管確保するときに採血を行いました。そして、検査結果を見てみると・・・・

 WBC 5000/MCL
 RB 258×104/MCL
 血色素量 3.0G/DL
 ヘマトクリット 11.6%

 とてつもない貧血をおこしています。おそらくどこかで大出血がおきていることは間違いなし。当然臍動脈閉鎖不全を疑いますが、今回の事例ではお臍からは出血した形跡はありません。しかし、剖検をしてみると・・・

 お腹のなかには血液が大量に漏れていました。詳細にみてみると、臍動脈を包んでいる膜が破れて、臍動脈からの持続的な出血がつづいていたことがわかりました。

ここまで大量に出血がおきている事例も珍しいです。


臍動脈から漏れた血液がたまっています。

 本来であれば臍動脈から出た血液はこの膜の中にたまることで止血されます。しかし、膜が破れていることから腹腔内に血液が出続けてしまい大量の腹腔内出血を引きおこし、貧血→低体温→死亡という流れになっていたと推測しています。この臍動脈を包んでいる膜がなぜ破れてしまったのか原因はわかりませんが、分娩時もしくは分娩後のなにかしらの衝撃が影響していると考えています。生まれてきた子牛を丁寧に扱うことはこのような観点からも非常に重要であると思います。

 今回は臍動脈閉鎖不全の流れから腹腔内出血を起こして死亡した事例を紹介いたしました。小生たちが思っている以上にこの臍動脈閉鎖不全は発生しており、子牛の生理的貧血のひとつの要因になっているのではないかと何となく思っています。

今週の動画
「Pregnancy test using blood part 2  血液を使った妊娠鑑定(その2)」

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