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江頭潤将のコラム
No.19 家畜の改良技術 その16

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2021年1月22日

○性選別精液による経済効果
 現在では一般的に使用されるようになった性選別精液ですが、通常の精液を使用する場合と比較してどのような経済効果があるのでしょうか。ここでは2つの試算を紹介したいと思います。

 ①北海道NOSAIの荻原先生は、乳牛100頭規模の酪農家において「未経産牛への人工授精(AI)を黒毛和種精液から性選別精液にすべて切り替えた場合の費用対効果」を報告されています(試算の条件は更新率28%、子牛損耗率7%、分娩間隔430日、必要な後継牛36頭/年、経産牛には通常精液:黒毛和種精液=9:1で使用、更新対象牛へはAIしない)。結果として、収入が250万円増、支出が100万円増で収支は150万円/年改善するというものでした。収入が増える要因として、雌子牛の生産頭数が増加すること、初任牛導入が不要になること、余剰分の初任牛の売却が可能になることがあげられています。また、支出が増える要因としては、授精料の増加、低受胎率による授精回数の増加をあげられています。

 ②次に、農研機構の佐々木先生は、ホルスタイン種雄子牛の代わりに黒毛和種との交雑種(F1)を生産した場合の経済効果を試算されています(試算の条件は分娩頭数60頭/年うち初産18頭、性選別精液による性の的中率は90%、未経産牛AIの7割が黒毛和種精液、経産牛AIは牛群規模維持に必要な分以外は黒毛和種精液を使用、通常精液3,000円、性選別精液10,000円、販売価格はホルスタイン種雄子牛25,000円、F1雌子牛70,000円、F1雄子牛120,000円)。受胎率の条件は、未経産牛のホルスタイン通常精液で52~57%、黒毛和種精液で55~60%とし、経産牛のホルスタイン通常精液で42~47%、黒毛和種精液で45~50%とし、性選別精液は通常精液より5%低いと仮定されています。結果として、性選別精液を利用する場合は使用しない場合と比較して農業所得が53万1,000~60万5,000円上昇すると試算されています。収入が増える要因としては、ホルスタイン雄子牛の減少、F1子牛生産量の増加による子牛販売収入の上昇があげられています。こちらの場合も①と同じように授精費用が上昇しています。

 これらがすべての農家さんに当てはまるわけではないですが、条件を変えてこのようなモデルを使用することにより、大まかな試算が可能かと思います。やはり、性選別精液を使用することで乳牛では後継牛を効率よく確保ができて、空いた母牛で黒毛和種やF1を生産できることが大きいですね。また、採胚のときに性選別精液を使用することによって理論的には生産された胚の9割が希望する性になりますので付加価値がつくかと思います。和牛では乳牛ほど性選別精液が利用されていないかと思いますが(そもそも選択肢が少ない)、県によっては全共用に雄(去勢)牛が必要な場合などに家畜改良事業団に受託生産して活用されているようです。

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