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江頭潤将のコラム
No.18 家畜の改良技術 その15

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2021年1月15日

○様々な雌雄産み分け技術
 大昔から雌雄産み分けは家畜だけでなくヒトでもいろいろと試みられてきたようです。家系、腟内のpH、遺伝的要因、重曹給与、受精のタイミングなどなど。伝承や迷信、まことしやかなおまじないのような説から学術論文としてしっかりとしたデータを示したものまで多岐にわたります。しかしながら、否定するデータも多く再現性に欠けていたり、実用性の面で問題があったりすることもしばしばあります。

 現時点で実用化されているのはフローサイトメーターによる性選別精液と受精卵の性判別くらいです。実験室レベルでは可能なことも現場で実用化するのは難しいことが多く、それは一口に受精といっても、様々な要因が関与しており単純なものではないことが関係していると考えられます。

 XY精子の運動機能や寿命の違いを利用した「受精のタイミング」による産み分けを例に取ると、XY精子で運動機能の差は論文などをみると実際にあるようです。しかし、受精に至るまでの要因として、射精から凍結保存までの時間が授精所やロットで異なる、種雄牛の個体差、保管中の品質管理、融解から注入までの時間、発情発見=発情開始ではないこと(デバイスを使えばより正確に分かる)、発情持続時間の個体差、正確な排卵時間の把握が難しいこと、子宮全長の個体差、など種々の要因が複雑に絡み合っています。この中で実験室並みの再現性を得ることはとても難しいと思います。うまくいっている方の話も聞いたことはあるのですが、最終的に雌雄の割合が半々に収束していくことが多いようです。シンプルなものほど実用化されやすいように感じます(XY精子を分ける、受精卵のDNAをみる、は高度な技術が使われていますが考え方はとてもシンプルです)。他にも海外では精液と混ぜるだけで産み分けができると謳っている家畜用の試薬が販売されていたりもします。

 ヒトの方ではSex Selection研究会という有志の産婦人科医で構成された研究会があり、推奨されている生み分け方法もあるようです。また、生み分けネットというウェブサイトもあり、生み分け用の製品も販売されていました。牛の世界しか知らなかったのでヒトの方でもあるんだなーと少し驚きました。

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