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蓮沼浩のコラム
第650話:臍動脈閉鎖不全 その1

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2021年1月14日

 最近、小生が牛さんの獣医師を目指す一つのきっかけとなった「ヘリオット先生奮戦記」を読みなおしています。20世紀前半のイギリス・ヨークシャー。そこの片田舎の獣医さんのお話ですが、本当に現場の獣医師として納得できる面白い話がたくさんあります。はじめて読んだのがかれこれ20年以上前になりますが、今読むとまた新しい発見があり、とても楽しいですね。
 
 お産で生まれてきた子牛のお臍から血がでていることはありませんか?ほんの少しのこともありますし、かなりの量が出てくるときもあります。それでは問題です。

 問 この血液は一体どこからでてくるのでしょうか!!

 答 臍動脈(さいどうみゃく)

 そうです、このお臍から出てくる血液は実は臍動脈という血管からでてくるのです。でもこの臍動脈はどこにあるのでしょう?外からは見えませんよね。実はこの臍動脈、生まれる時にちぎれてしまい、おなかの中に引っ込んでしまうのです。引っ張ったゴム紐をはなしたら引っ込むように、臍の緒が切れた時にこの臍動脈はおなかの中に一瞬で入ってしまいます。だから、普段はみることができません。臍動脈遺残(さいどうみゃくいざん)といって、時々この臍動脈がおなかの中に引っ込まないで外にでている事例もあります。このような感じです。そして、この臍動脈は2本あります。


これが臍動脈です。血管壁は弾力があり、コリコリしています。血管壁も厚いです。


このように臍動脈はおなかの中に引っ込んでいます。そして膜に覆われています。

 臍動脈の役割は、胎児期に胎児体内を循環した静脈血を母親の胎盤に運搬する役目があります。さらに細かくいえば、胎児の腹大動脈から分岐した左右内腸骨動脈から出て、臍帯に続いています。臍動脈ともう一つお臍には臍静脈(さいじょうみゃく)というものがあります。こちらはお臍から肝臓につながっています。臍動脈と臍静脈は血管壁の構造が違うのでなれれば見た瞬間にすぐにわかります。


こちらは臍静脈。肝臓につながっています。


臍静脈の血管壁は薄いです。形状はペタンコになっており、臍動脈と全く違います。

 臍動脈閉鎖不全の前に、まずはこの臍動脈と臍静脈の違いを見分けられるようになることがスタートになります!
 
 
今週の動画 「A shepherd’s jacket. シェパードのジャンパー」

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