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江頭潤将のコラム
No.15 家畜の改良技術 その13

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2020年12月18日

○フローサイトメーターによる精子の選別
 日本でもフローサイトメーターを用いた性選別精液は製造されていますが、その根幹を成す技術はアメリカの特許となっています。この技術を開発したのはアメリカ合衆国農務省のジョンソン博士という人で1980年台のことです。当初は精子を選別する速度や精度は現在よりもずっと劣り、利用法も限られていました。日本では家畜改良事業団さんが博士らと協力し1988年から今まで研究を重ねられてきたそうです。
 
 現在の生産効率まで能力が向上できたのは機械の進化によるところが大きく、性選別精液の開発の歴史は、精子を選別するための機械の開発の歴史といってもいいのかもしれません。今では5世代目のフローサイトメーターが使用されており(私が見学に行った時は4世代目でした)、畜産の情報2017年6月号によると1時間あたり1000〜1700×3万個の選別速度だそうです。それでも通常の凍結精液と比べると製造できる本数は少なくなりますが、日々技術は進歩しているのでこれからも必ず効率はよくなっていくことでしょう。本数をある程度確保するためには濃度を通常より低めに設定する必要がありますし、通常の凍結精液でも人気のある種雄牛はなかなか性選別精液の方に回す余裕がなかったりするのかもしれません。また、個体差もありますので処理を加えることで耐凍性が落ちてしまって製造できない個体もいるかもしれません。いつの日かこのような課題を全てクリアーできる技術が出てくることでしょう。

 最初にアメリカの特許と書きましたが、この技術を用いて国内で性選別精液を製造している日本の会社はアメリカの会社とライセンス契約を結んでいます。ですので、契約会社ではないところが精液を利用する際にはいくつかの制限があります(輸入精液はこれに限らない)。例えば、人工授精や体内胚生産には使用可能だけど、体外受精胚は作っちゃダメだよ、というようなものです。OPUによる体外受精胚生産が広がりを見せており、これからさらに普及していくことが予想される中、性選別精液を使えないのはなんとももどかしいものです。ですので、個人的には国産のすばらしい性選別技術が開発されることをずっと願ってきました(他力本願)。なんと最近、その可能性を秘めた研究に関する報告がありました。

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