(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
江頭潤将のコラム
No.14 家畜の改良技術 その12

コラム一覧に戻る

2020年12月11日

○性選別精液
 まずは雌雄産み分け法として現在最もメジャーな性選別精液についてです。前々回のコラムでX精子とY精子の違いが分かれば選別することができるようになると書いていましたが、性選別精液を作る上で利用している違いはズバリ「DNA量」です。Y染色体よりもX染色体の方が大きく、牛ではDNA量が3.8%ほど違います。では、このわずかな差をどのように利用して精子を選別しているのでしょうか。

 実験を行うときに細胞を光らせて観察しやすくする蛍光試薬の一つにヘキスト(正確にはHoechst33342)というものがあります(参考に受精卵の二重染色の画像を載せています。ヘキストによって細胞の核が青く光ります)。この試薬を精子と反応させるとDNA量に応じて蛍光強度が変化するので、DNA量が多いX精子の方がより強く光ります。あとは蛍光の強さによってX精子とY精子を分けてあげればOKとなります。


二重染色

 蛍光の強さを読み取るのはフローサイトメーターという機器を使用します(フローサイトメトリー法。現在ではこの方法以外の新しい技術も開発されているようです)。詳しい原理についての説明は省きますが、精子一個一個にレーザーを当てて蛍光の強さを読み取ってX精子とY精子を識別して分離します。一個ずつ読み取るので、一回の射精で得られる精子(数十億個!)全部を分けようとするとものすごーく時間がかかります。
 
 以前、性選別精液の製造風景を見学させてもらったことがありますが、複数台の機械を朝から夜遅くまで稼働させてつきっきりで作業されておられました。しかも精子へのダメージを最小限にするために低温での作業が必須ですので、部屋の温度も低めに設定されておりスタッフの方は防寒着を着ながら作業されていました。性選別精液を使うときはいつもあの風景が頭に思い浮かびます。

 マニアックな話になってしまいますが、このフローサイトメトリー法による性選別精液開発の歴史は面白い(と個人的には思っています)ので次回紹介したいと思います。

|