(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
江頭潤将のコラム
No.12 家畜の改良技術 その11

コラム一覧に戻る

2020年11月27日

 具体的な雌雄産み分け技術に入る前に、まずは哺乳類である牛の性決定の仕組みについて紹介します。詳細については成書に譲りますが、細胞の核に含まれる染色体の中で性染色体と呼ばれるものの組み合わせによって性が決定されます。ほとんどの哺乳類は雄ヘテロ型(XY型)と言われる性決定様式でX染色体を2本持つものが雌、X染色体とY染色体を持つものが雄となります。
 前段で雄の細胞にはXとY染色体、雌の細胞にはX染色体が2本存在することが分かりました。次に、生殖細胞である精子と卵子は性染色体を1本しか持ちません。精子は雄から作られるので、XまたはY染色体を持ち(ここではX精子、Y精子と呼びます)、卵子は雌からしか作られないのでX染色体を持っています。受精の過程で1つの卵子には1つの精子しか受精できないので、X染色体を持つ卵子にX精子が受精すればその個体は雌(XX)に、Y精子が受精すれば雄(XY)になるというわけです。ちなみに、X、Y精子は理論的には1:1の割合で精液中に含まれるので、生まれてくる子牛の性は大体雄雌半々になります。

 牛の性を受精の段階でコントロールするということは、すなわち、卵子に受精する精子をX精子かY精子か人為的に選択することができればよいということになり、基本的には精子側からのアプローチによる技術になります。そして、X精子とY精子を人為的に選択するということは、両者に機能的または構造的な何かしらの”違い”があればその目的は達成しやすくなります。その”違い”を見つけ、それを利用して受精する精子をXまたはYに偏らせることができれば良いわけです。
 また、受精した後の段階で性を調べることができれば、移植する際に雌雄の受精卵を選択することができるようになります(受精卵側からのアプローチ)。こちらは精子側からのアプローチと違って、すでに性が決定された後の判別になりますので受胎さえしてしまえば限りなく100%に近い産み分けが可能です。
 どちらもメリットデメリットありますが、次回からは実用化された技術だけでなく、実用化に至らなかった技術も含め色々と紹介できればと思います。(続く)

|