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江頭潤将のコラム
No.10 家畜の改良技術 その9

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2020年11月13日

 教科書的な内容ですが、凍結精液の融解について確認していきます。

 凍結精液にとって-40〜-15℃は有害温度域といわれ、融解する際にはこの温度をなるべく早く通過させなければいけません。そのため、一般的に37℃〜38℃の温湯を使用して凍結精液を融解します。それよりも低い温度だと有害温度域の通過時間が長くなってしまい、精子に傷害が起こると考えられています。正しく融解した場合と比較すると、融解直後では精子の活力にあまり差がないように見えることもありますが、その後時間がたってくると低すぎる温度で融解した精子は著しく活力が低下していきます。特に性選別性液は影響が大きいと言われていますのでより注意が必要です。
 また、授精する頭数が多いときに数本まとめて融解することもあるかもしれませんが、短時間で終わらない場合は授精する前に確実に1本ずつ融解することが推奨されます。まとめて融解すると温湯の温度が低下して融解速度が遅くなったり、融解から注入までの時間が長くなったりするからです。
 
 融解した後の急激な温度低下も精子の活力に影響を与えますので、外気温が低い冬場は要注意です。ストローをセットする前に注入器を温めておいたり、セットした後も保温してあげたりなどの温度管理が重要となります。冬になると授精師さんが注入器を胸元や背中に差して牛のところまで歩いている姿をよく見かけますね。
 凍結精液を融解するときは温度計とタイマーを準備して、温湯の温度と融解時間の管理をしっかりと行いましょう。慣れてくると感覚で温度を調整したり時間を測ったりしてしまいがちですが、夏と冬で感覚は全く違いますし時間も当てになりません。直射日光も紫外線によるダメージがあるので当てないようにしましょう。

 融解方法の基本的な考え方は同じですが、凍結精液を製造している人工授精所によって融解温度や時間が異なることがあります。これは、希釈液の組成や製造方法などの微妙な違いにより、最適な融解条件が異なるからだと考えられます。それぞれのマニュアルに記載された通りに処理することが大切になります。

 人工授精をやっているとだんだんと自己流になりがちなのですが、精液の品質を最高の状態に保ったまま雌牛に注入するために大切なのはやはり「基本に忠実」ということになってきます。長々と書いた割に結局そこです(笑)。

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