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江頭潤将のコラム
No.9 家畜の改良技術 その8

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2020年11月7日

 製造段階で人工授精用凍結精液としての条件を満たしていたとしても、誤った保管方法や融解方法で品質が劣化してしまっては元も子もありません。保管方法や融解方法に関する情報はいろいろなところで見ることができますし今さら感はありますが、大切なことですので確認しておきたいと思います。

 保存中の凍結精液の品質に最も影響が大きいと思われるのは温度変化です。液体窒素は-196℃なので空気中とはかなりの温度差があり、ストローを空気中に出すと短い時間でもすぐに温度が上昇してしまいます。凍結精液が−130℃以上になると精子の周りの凍結液が脱ガラス化して精子が障害を受け、さらに、−80℃以上になると精子内で不可逆的な障害を受けるので融解後の生存率や活力が低下すると考えられています。
 ストローを取り出す際にキャニスターを液体窒素から出し入れするかと思いますが、空気中に出している時間が長いと保存されている精液の品質がだんだんと劣化していきます。授精頭数が多いと一日に何回もタンクの開け閉め、キャニスターの上げ下げをしますので、小さな温度変化でもダメージが徐々に蓄積されていきます。そのような時間をなるべく短くするように意識することが必要です。

 また、タンク内の液体窒素がほとんど入っていなかったので精子が生きているか見てほしい、と相談を受けることもしばしばありました。一般的にタンク内に少しでも液体窒素が残っていれば中は−180℃以下になっているそうです。あまりに少ないと短期間で空になってしまいますので、最低でも液体窒素が常に1/3以上になっているようにした方がいいですね。(続く)

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