(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
江頭潤将のコラム
No.8 家畜の改良技術 その7

コラム一覧に戻る

2020年10月30日

 精液の品質管理についての続きです。

 採精直後は精液の量、色、臭気、精子の濃度、活力などを確認します。牛は体の大きさの割に精液量は意外と少なく3~10mlくらいです。その代わり精子濃度は8~15億/mlと比較的高いです。精液量と濃度によって製造することができるストローの本数が決まりますので量が多くて濃度が高い方が作る側としては嬉しいですね。
 動物種によって精液量や精子濃度は異なりますが、精液量が少ない動物は精子濃度が高く、逆に精液量が多い動物は精子濃度が低いことが多いです。これは交尾時間とも関連しており、交尾時間が短い牛や山羊などが前者、交尾時間が長い馬や豚が後者となります(例えば豚は150~500mlの精液を射出しますが、精子濃度は0.5~3億/ml程度です)。
 色や臭いも重要な要素で、血液や膿などが混入した場合には色や臭いに変化が現れます。もちろん、そのような精液では凍結精液を製造することは難しくなります。

 採精をしていて一番気になるのはやはり精子の活力と生存率です。濃度のばらつきはあまりなかったのですが、個体によっては活力や生存率が結構ばらつく牛がいました。活力は良い順から+++、++、+、±、−の5段階で、生存率は%を数字で表します(例えば90+++という表記は極めて活発な前進運動を行う精子が90%いることを表します)。人工授精に使用するために最低限必要な活力や生存率というものがあり、ストローを製造している人工授精所でそれぞれ基準値が定められているかと思います。以前の職場では採取直後、凍結前、凍結後に精子の活力と生存率をチェックして基準を満たさないものは廃棄していました。
 また、ルーチンな検査ではありませんが、精子の奇形率や受精の際に重要な役割をする精子の先端部分(アクロソーム)の検査が行われることもあります。さらに、限られた機関ではありますが、人の不妊治療でも使用される精子運動解析装置という機器を用いて精子の泳ぐスピードや直進性の測定といった検査も行われています。

 このように、市販されている凍結精液は製造している人工授精所の厳しい基準をクリアしているものなので基本的に品質に問題はありません。凍結精液の品質管理で特に重要なのは、製造者から他の人の手に移った後の管理方法であると思っています。せっかく高品質な凍結精液を手に入れたとしても、輸送や保管、使用する段階で取り扱いが悪いと劣化してしまうことがあります。
 次回はこの辺りの話をしたいと思います。

|