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江頭潤将のコラム
No.7 家畜の改良技術 その6

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2020年10月23日

○凍結精液の品質管理
 人工授精に使用する精液の品質は受胎率に影響を及ぼす要因の一つです。「精液の品質管理」を広い意味で見ると、種雄牛の飼養管理から始まり、人工授精で使用するときにストローを融解して注入するまでが含まれると考えます。人工授精のために必要な凍結精液が具備すべき条件というものがあり、それをクリアするために様々な段階で徹底した管理がされています。簡単にですが紹介したいと思います。

 種雄牛は経済的価値がとんでもなく高い動物なので他の牛と比べて特別待遇であることは言うまでもありません。ストレスや体調、飼養環境は精液性状に影響を及ぼしますのでストレスの少ない広々とした単房で飼養されています。飼料も良質なものを与え、種雄牛ごとに添加剤のメニューも変えていました。意外と神経質な面もあって、隣の部屋にきた牛によってはストレスを感じることもあるようで、お隣さんとの相性を考えてあげないといけないこともありました。これは施設で異なるかと思いますが、前職の佐賀畜試の場合、牛体洗浄、ブラッシングが毎日行われていました。ですので、種雄牛はいつ見てもピカピカでした。このような環境でしたので病気になることはほとんどありませんでした。
 
 採精は基本的には週に1〜2回行います。精液に汚れなどが混入するといけないので採精前は牛体や包皮の中などをしっかりと洗います。最も緊張するのが採精の瞬間です。採精の際に牛と呼吸を合わせないといけません(牛と採取者と引き手が三位一体にならなければいけないと言われていました)。もし採精でミスをすると、せっかく採取した精液に不純物が混ざって使えなくなったり、種雄牛のペニスを傷つけたりします(陰茎白膜裂傷となり手術が必要なこともあります。数ヶ月採精中止となり経済的損失が大きいです)。それだけではなく、タイミングが合わずに種雄牛が転倒して牛だけでなく人が怪我をしたり、最悪の場合、死亡事故につながったりします。このようなことから、採精の現場はとても緊張感がありピリピリしていました。

 これらのように精液を採取するまでもしっかりとした「品質管理」が行われています。次回は採取した後を見ていきたいと思います。

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