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No.5 家畜の改良技術 その5

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2020年10月9日

 授精に関する技術も長い年月をかけて改良されてきました。精液の採取法、注入法、注入する精液量や濃度、授精のタイミングなどが研究されました。
 人工腟が開発される前の、初期の精液採取は腟の中に射精された精液を回収して使用するという方法(海綿法、腟内採取法)がとられていました。他にもコンドーム法やペッサリー法などがありましたが、それらの欠点を補った人工腟法が開発され、汚染の少ない精液を回収できるようになりました。他にもマッサージ法や電気刺激法がありますがこれらは乗駕欲のない種雄牛などで用いられることがあります。現在では擬牝台に種雄牛を乗駕させて人工腟により採取する横取り法が一般的になっています。この方法も50年以上前からほとんど変わっていません。
 授精用精液の保存も現在のプラスチックストローが使用される以前は試験管やガラスアンプルに保存されていたようです。1960年代にフランスで改良、製造されたプラスチックストローと注入器が現在世界的に一般化しています。
 注入法も腟鏡法(腟鏡で腟を開いて注入器を頚管外口に入れて注入する)、鉗子法(腟鏡法に加えて子宮頚管鉗子を用いて頚管外口を手前に引き寄せ、注入器を頚管深部まで進めて注入する)、直腸腟法(直腸壁を通して子宮頚管を掴み、腟内に入れた注入器を操作して子宮頚管を通過させて子宮体に注入する)などがあります。注入部位は腟鏡法<鉗子法<直腸腟法の順に深くなります。また、頚管外口部への注入では1回に使用する精子数が多く、しかも受胎率もあまりよくなかったようです。鉗子法や直腸腟法による頚管深部または子宮体への注入では精子数は2500〜3000万程度で良好な受胎率が得られています。現在では人工授精用の深部注入器なども開発されて、子宮角への注入も比較的容易になりました。性選別精液では深部注入もよく行われていますね。

 ちなみに、腟という漢字ですが大学の頃「動物では腟、ヒトでは膣と書く」と習いました。しかし、調べてみると医学的にも腟の方が正式で、膣は誤用であるとの資料がありました。専門用語は難しいものが多いですが正しく使いたいですね。

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