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和牛生産における受精卵移植技術の活用(④ET手技のポイント)

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2020年9月26日

④ET手技のポイント

 前回のコラムではETとAIを実施タイミングや費用の観点から比較しました。そのなかの受胎率の項目で「受胎率は技術者の練度によるばらつきが大きい」としました。
 ETの受胎率には受精卵の品質、移植手技の練度、受卵牛のコンディションの3つが関わってきます。今回はETの成功率を上げるためのポイントを「移植手技」にフォーカスしてまとめてみたいと思います。
 ここでは私が普段心掛けているポイントを4つに分けて解説をします。私が普段使用している移植器は(株)ヤマネテックのYTガンです。

① 黄体検査にエコーを用いること
 触診によって得られる情報も有益ですが、情報の正確性という面では、やはり視覚情報に勝るものはありません。エコーの所持・使用には獣医師免許が必須と思われている方も多いと思いますが、家畜受精卵移植師また家畜人工授精師が移植ないし授精に伴う卵巣検査のためにエコーを利用することに関しては法的に問題がありません(もちろんそれを使った診断行為はできませんが)。
 また、昨今では安価なエコーも販売され始めました。より多くの技術者がエコーにて正確な黄体評価をするべきだと思います。
 エコーの有用性を述べましたが、決して触診を全否定しているわけではありません。子宮の収縮を触診で評価することは非常に重要であることを付け加えておきます(収縮が強いと受胎率が有意に低下する)。

② 尾椎硬膜外麻酔を用いること
 子宮頸管に移植器を通過させると必ずウシは怒責を起こします。この怒責により直腸運動が亢進し、移植操作が難しくなってしまいます。こういった状況で移植操作を進めると子宮壁に過度な物理的刺激を与え、受胎率の低下を招きます。尾椎硬膜外麻酔を用いると、この怒責が起こらないため、確実な移植操作が可能になります(尾椎硬膜外麻酔の実施には獣医師免許が必要)。

③ 黄体側に移植すること
 黄体側、非黄体側どちらに移植しても早期妊娠診断においては受胎率に差がみられません。しかし、非黄体側に移植された受精卵はその後死滅してしまうものが多く、最終的な受胎率としては低くなってしまいます(そんな技術者はいないと思いますが)。左子宮角に入れるのが苦手だから黄体の有無にかかわらず右子宮角に移植する、といった考えは言語道断です。

④ 移植器を汚染しないこと
 黄体期の子宮内部は発情期に比べて細菌感染に弱いと言えます。移植時に子宮内を汚染することの無いよう、細心の注意を払う必要があります。
 第一に移植器のカバーを清潔に保つことを意識しなければなりません。移植器はカバーがついているから少々汚染しても大丈夫であるという考えは完全な誤りです。カバーが汚れていると移植器先端を汚染するリスクが高まります。

 よって外陰部の消毒には高い意識を持ち、カバーを清潔に保ったまま子宮頸管へと進めることが大切です。外陰部の消毒にはオスバンS等の逆性せっけん液が最適です(アルコールは粘膜刺激性が強く、ウシが嫌がります)。また、助手に膣鏡を挿入してもらい、目視下で移植器を子宮頸管外口部へと進める、といったアプローチは非常に優れた方法と言えるでしょう。
 第二にカバーが子宮頚管に到達する前に破れてしまうことを予防することが重要です。これにはカバー先端に滅菌ゼリーを塗布する、若しくは破れにくい硬質カバー(ポリプロピレン製、ポリ塩化ビニール製)を用いることで対応ができます。(つづく)

笹崎獣医科医院
笹崎真史

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