2020年9月12日 ②ET実施数の現状と体内・体外受精卵 前回、受精卵移植(ET)技術を農場に導入することのメリットを解説しました。今回はET実施数の現状と体内・体外受精卵の違いについて触れます。 日本においてET技術はどの程度活用されているのでしょうか。平成26年の畜産統計によると日本では年間123万頭の子牛(乳用種および肉用種)が出生しており、その3.4%に該当する4.2万頭が受精卵産子(黒毛和種)でした。乳用種や交雑種の受精卵産子数は不明でしたが、それらの数は黒毛和種の受精卵産子よりずっと少ないと考えられます。よって日本で一年間に生まれる受精卵産子数は乳用種、肉用手合わせて5万頭弱、と言ってよいでしょう。この数字に基づいて受胎率、分娩事故率を考慮すると日本において年間12万回ほどのETが実施されていると推測できます。 受精卵は大別して体内受精卵と体外受精卵の二種類に分類されます。令和二年現在の日本では体内受精卵の方がより多く生産され、移植されています。 ① 体内受精卵に関して ② 体外受精卵に関して なぜ、体外受精卵は体内受精卵より進んだステージのものが移植に用いられるのでしょうか。これには、現在日本で最も多く使用されている体外受精卵の培養体系と深い関わりがあります。通常、受精卵はCMやEBの時期においてその形態、色調などから受精卵の生存性、発育ステージを判定し、使用の可否を決定します。しかしこの培養体系にて培養された受精卵はCMやEBの時期に受精卵内に脂肪(顕微鏡でみると黒っぽく映る)が多くみられるという特徴があります。このため形態、色調などの観察が困難であり、受精卵の生存性や発育ステージが判定できません。この受精卵の判定を邪魔する脂肪はCMやEBの時期から、さらに発育する過程でエネルギー源として消費され、消失します。よってExpの時期になると詳細に観察できるようになり、生存性や発育ステージが評価できるようになります。体外受精卵も体内受精卵と同じようにCMやEBの時期のものを使用したい(高受胎率を望めるため)のですが、評価ができないのでもう少し発育させる必要がある、ということです。このような事情から、一般的な体外受精卵はExpにて使用されています。しかし近年、体外受精卵でもCMやEBにて使用可能な新しい培養体系が海外から日本に導入され、この方法で作成された(受胎率の高い)体外受精卵の利用が徐々に広まりつつあります。(つづく) 笹崎獣医科医院 |