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笹崎直哉のコラム
目標設定とそこに向かって その5

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2020年9月8日

 私事ですが、普段使っているイヤホンが壊れてしまったので、新しく買おうと考えていた笹崎は「せっかくならBluetoothの無線イヤホンを使ってみよう!」と気合いが入り、少し高価なものを購入しました。ノイズキャンセル機能がついているもので、集中したいときにワンタッチで環境音を遮断してくれるハイテクイヤホンです。とっても便利です。最近は我々の想像を上回る商品が次々と出てきますね。いや~ついていけません。

 さて脱線しましたが、前回の続きに入ります。血液検査結果を考察する前になぜこの検査項目を選んだのかを紹介しようと思います。

 まずAST(GOT)γGTP肝マーカーとして知られており、今回は肝臓の健康状態を確認するために測定しました(ちなみにγGTPは肝疾患意外にも胆嚢炎や胆道炎などの胆道系疾患の指標にもなります)。
 繁殖のお話と肝臓ってどう関係するの?と疑問に思う方がいるかもしれません。肝臓はたくさんの役割がありますが、その1つとして「コレステロールの産生」があります。エストラジオールやプロジェスステロンなどの性ステロイド系ホルモンはコレステロールを基に作られています。なので繁殖に関わるホルモンの代謝に肝臓が大きく関与するため今回測定しました。
 コレステロールは、生体膜の成分であるリン脂質や先ほどの述べたようにステロイド系ホルモンを生合成する際、材料になる脂質のひとつです。血中のコレステロールは摂取した飼料の量に応じて増減する傾向があります。なので今回は「牛さんの栄養状態を知る」ことを目的にT-choすなわち総コレステロールも測定しています。

 次にBUNです。Blood Urea Nitrogenの略で日本語に変換すると尿素窒素になります。今回、BUNは飼料中に含まれる蛋白質の代謝をチェックするための項目として測定しました。

 「代謝っていってもどこで起こる代謝のこと?」

 と思う方がいるかと思います。答えはルーメン内での代謝です。牛さんの場合、食べたエサに含まれる蛋白質のほとんどはルーメンで分解されてアンモニアに変換されます。アンモニアがそのまま残ると大変なことになりますね…。
 でも安心してください。ルーメン内微生物がアンモニアを利用して新しい蛋白質(菌体蛋白質)を合成してくれます。・・・これってよくよく考えれば凄いことですよね。
 さてBUNはアンモニアの代謝産物に該当します。つまりBUNが低値の場合はルーメン内の蛋白が足りていないことを表します。原因として、牛さんの食欲不振、飼料中の蛋白質の不足、ルーメン機能の衰退が考えられます。
 一方でBUNの高値は蛋白質が過剰になっているか、菌体蛋白質を合成するために必要なエネルギー(デンプンなどの炭水化物を指します)が不足している場合を指します。このときというのは高アンモニア血症になっている可能性が高いです。アンモニアは猛毒ですので、肝臓はもちろんのこと子宮や卵巣にある卵胞にまで悪さをします。さらに皆さんがよく耳にする尿石症などの疾病原因にもなりえます。
 以上からBUNの数値は低くても、高くても良くないことが分かりました。そもそも血中のアンモニアを測ればいいじゃんという意見もあると思いますが、測定までの血液処理が複雑でいろいろと難しいこともあり、基本はBUNを測定するようにしています。

つづく

※2020年9月9日、一部修正を加えました。

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