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蓮沼浩のコラム
第627話:病名の影響力

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2020年7月30日

 令和2年4月3日に「家畜伝染病予防法の一部を改正する法律」が公布されました。その中でいろいろな変更点がありますが、小生は「家畜伝染病及び届出伝染病の名称変更のための政省令改正」にとても興味を持ちました。
 日本獣医師会はこれまで家畜の伝染性疾病の種類(名称)の適正化を提言してきています。牛・馬・鶏・豚・山羊などの疾病の名称が今回の法律で変更されています。小生は牛の獣医師なので、牛の病気の名称の変更をみてみると・・・

 この中でやはり一番の注目ポイントは「牛白血病」の名称の変更でしょう。今までは「牛白血病」という名称をできるだけ使わずに、BLVやEBLという言葉をつかっていましたが、ここにきてついに「牛伝染性リンパ腫」という名称に変更されました。今までずっと「牛白血病」やBLVという名称を小生は使ってきたので、慣れるまで相当大変そうです。つい、昔の名称を口走ってしまいそうです。

 このような名称の変更の背景には以下のような理由があります。

 「人の感染症と類似の名称が使用されているため、病原的には全く無関係であるにもかかわらず、一般消費者等に無用な誤解を与える」

 本当に言葉の力はすさまじいものがあります。すべて世の中はイメージで動きます。言葉が醸し出す雰囲気、空気、違和感などなど。ある意味本当に怖いことです。

 ちなみに「牛ウイルス性下痢・粘膜病」は「牛ウイルス性下痢症」に変更です。今までの病名は英語ではBVD‐MDなどと言われ、知らない人にとってはさっぱり意味のわからない感じでした。おまけに病気のメカニズムも特徴的なので、さらに問題点がわかりにくい病気です。これからはBVDだけになり「‐MD」が消えてしまいます。わかりにくい粘膜病の所がきえてしまいました。小生の中では「牛伝染性血栓塞栓性髄膜脳(脊髄)炎」(今は使われていません)に次ぐナイスなネーミングだったのですが、ちょっと残念です。

 それにしても・・・・

 牛のウイルス性の下痢症にはBVD以外にもロタウイルスやコロナウイルスもありますし、BVDは呼吸器病も大発生させるので「牛ウイルス性下痢症」という名称には少し違和感はあります。「牛白血病」が「牛伝染性リンパ腫」に変わったようにBVDも全く違う名称にしてしまうのもありだったかもしれません。

今週の動画 「 コアリング Coring 」

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