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松本大策のコラム
膵炎の診断

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2020年7月20日

 みなさん、暑くなったり雨が続いたりと体調を崩しやすい季節ですが、牛さんは順調に食べてくれていますか?シェパードにも「最近食欲がない」というご質問がかなり寄せられます。その中でも診断が難しい膵炎のお話をしましょう。

 膵臓という器官は十二指腸にへばりついているスライムみたいな消化器官です。エコーでも見つけにくいなんともはっきりしない臓器ですが、その働きは大変重要です。まず、消化器官としては、哺乳類の身体の中で最も強力なタンパク質分解酵素を分泌します。他にも消化酵素として、脂肪を分解するリパーゼという酵素も出しています。

 それから、内分泌器官(ホルモンを出す器官と思ってください)としては、糖尿病でよく耳にするインスリン(血糖値を下げる働きをします)や、その反対に血糖値を上げるグルカゴンというホルモンを分泌します。ですから、膵臓の内分泌系が壊れると「糖尿病」になりますし、膵臓の外分泌系が壊れると、哺乳類最強のタンパク質分解酵素(トリプシン)が漏れ出して膵臓を溶かしてしまう、恐ろしい膵炎や膵壊死という状態になります。人間でもこれがひどくなると、お腹から背中からどこが痛いのか分からなくなるくらい、例えればお腹の中で爆弾が爆発したような痛みが出ますし、立てなくなったり死んでしまう場合もあります。僕自身、慢性膵炎で3回入院(2~3ヶ月かかります)しているので詳しいですよ(笑)

 さて、今日はこの膵炎と膵壊死のお話です。先程、膵臓は最強のタンパク質分解酵素を分泌する、というお話をしました。でも、ちょっと考えてみてください。膵臓も膵液を出す膵管もタンパク質です。そんなとこで最強のタンパク質分解酵素を作れば、膵臓も膵管も、そして周りの身体もみんな分解されて溶けてしまいます(実はこの状態になってしまったのが膵壊死なのです)。そうなっては困りますよね?そこで、さすがは神様!膵臓から腸に分泌されるまでは、タンパク質分解酵素(トリプシン)の未完成品を作って、そのまま腸管内まで膵液で分泌します。腸管内は、タンパク質ではない粘液(ムコ多糖類)でコーティングされていますから、どんなに強力なタンパク質分解酵素が来ても平気です。そこで食べ物だけを分解するわけですね。

 ここで、どうやって未完成品のタンパク分解酵素(トリプシノーゲンといいます)を完成品のトリプシンに変化させるのかというと、肝臓で作られた胆汁と腸内で混ざることによってトリプシノーゲンがトリプシン、つまり完成品に変化するのです。

 ここで問題なのが、胆汁を分泌する胆管と膵液を分泌する膵管がくっついていたり、すぐ近くで開口している場合、胆汁が膵管の方へ逆流していって、本当なら完成品になってはいけない場所、つまり膵管や膵臓で完成品の強力なタンパク分解酵素に変化してしまうことです。

 そうなると膵臓も膵管も分解されていきます。これが膵炎、ひどくなると膵壊死です。そして、このトリプシンが今度は胆管の方へ流れていくので胆管や胆嚢も分解されていきます。

 このために血液検査では、普通肝臓の破壊を調べる酵素のうち、肝細胞の破壊で上昇するGOTの上昇は見られず、胆管上皮の破壊で上昇するγGTPのみが高値を示すわけです。だから、γGTPのみの上昇が見られたときは膵臓を疑ってみましょう。裏付けは、膵臓の細胞の破壊を調べるアミラーゼを測定すれば解ります。このとき膵臓は腫れて硬く変成していることが多いです。

 この病気は極めて治りにくく、また牛さんも弱りやすいので速やかに診断をつけて出荷してあげる必要があります。

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