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戸田克樹のコラム
第290話「梅雨になると思い出すマイコトキシン⑦」

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2020年7月1日

肝臓や腎臓に障害を与えるマイコトキシンはもちろん大事なのですが、繁殖農家にとって最もおそろしいマイコトキシンを紹介してこのシリーズを締めくくることにします。

その名はゼアラレノン
マイコトキシンの代表格といえばアフラトキシンです。重度の肝機能障害をもたらす上に、代謝物が乳に移行してしまうこともあります。かなりメジャーな存在ですから聞いたことがある方も多いかもしれません。しかし、ゼアラレノンとなると「???」となる方の方が多いかもしれません。

別に激しい中毒症状は示さないのに…
牛がゼアラレノンを摂取してもアフラトキシンのような激しい症状は示しません。それゆえに見逃されてしまうことも多いのです。しかしながらこのマイコトキシンは内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン)として有名で、ズバリ繁殖障害の原因となるのです。

流産・鈍性発情・発情周期の乱れetc
繁殖障害をもたらす原因はゼアラレノンの構造にあります。体内で分泌されたホルモンが細胞内の受容体という「かぎ穴」にくっつくと、細胞が反応しそのホルモンに応じた働きを始めます。図のようにエストロジェンとゼアラレノンは一部の構造が似ているため受容体にうまくはまってしまい、細胞が「勘違い」してしまうのです。

普段は卵巣内の卵胞の発育に伴って増えるエストロジェンが「増えたと勘違い」してしまうので、発情周期でもないのに(実際は卵胞が発育していないのに)発情行動を示す、あるいは明瞭ではない発情様行動が数日に渡って持続する(細胞が明瞭なホルモンの増減を感知できなくなるため)、さらにエストロジェンは本来排卵直前に大量に分泌されるホルモンのため、妊娠中であっても発情期にあると体が「勘違い」し流産さえ起こってしまうのです。

産業動物では豚の感受性がもっとも高くゼアラレノンによる死流産がよく問題になります。豚ほどの感受性はないのですが、牛でも同様に死流産が起こりうるため、このマイコトキシンには注意が必要です。

梅雨の時期は私たち人間もウツウツとしてしまいますが、カビという強敵をいかに攻略するかというテーマに取り組みながら仕事をしていくのもおもしろいかもしれませんね。

おしまい

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