(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
池田哲平のコラム
「牛の解剖87:膵臓(3) ~インスリンと肉質(1)~」

コラム一覧に戻る

2011年10月14日

 インスリンは血糖値を下げる働きをしますが、この「血糖値を下げる」というのが、結果的に肉質に影響することになるのです。結論から先に言うと、インスリンは枝肉の肉色の濃淡に関わってきます。どういう仕組みかは以下で説明します。

 血糖値の“糖”とは“ブドウ糖=グルコース”の事なのですが、インスリンはこのブドウ糖を“グリコーゲン”というものに変換する作用を促進する働きがあります。ブドウ糖は体内ですぐに利用されるエネルギー源ですが、そのままの形では体に貯めておくことができません。これでは急にたくさんのエネルギーが必要になった時(走ったり跳ねたりなど激しい運動をする時)にガス欠になってしまいます。そうならないように、ブドウ糖をエネルギー源として肝臓や筋肉にストックするために形を変えたものがグリコーゲンです。

 筋肉中に蓄えられたグリコーゲンは、と畜された後に解糖発酵という働きで“乳酸”とう酸に形を変えます。この乳酸のために酸性になった筋肉では、肉食が鮮やかな桜色になるのです。筋肉の色素であるミオグロビンはそれ自体では暗い赤色なのですが、酸素とくっつく事で明るい桜色に変化します。しかしこの酸素との結合は、酸性の条件下でないと上手くいかないのです。
 なので、きれいな肉食のためには乳酸によって筋肉が酸性になる事が必要で、そのためにはグリコーゲンが筋肉中に蓄えられていないといけないことになります。それを促進するのがインスリンという訳なのです!

 ふぅ、ちょっと長かったですね……

|