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蓮沼浩のコラム
第611話:畜舎環境中の病原性微生物

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2020年3月26日

 世の中が大きく揺れ動いていますが、このような時こそ自己研鑽にしっかりと励んでいきたいと思います。
 
 アメリカの国立研究所がcovid-19の環境中の生存時間のレポートを出しています。空気中では3時間、銅の表面4時間、プラスチックやステンレスの表面では3日間、段ボール1日という結果が出ています。非常に重要な報告ですね。牛さんもヒト様も同じ哺乳類だし、呼吸器病の病原性微生物の感染経路も似たようなものなので、妙に納得しました。

 牛さんの例をいくつか出してみましょう。

 例えば、換気。よくあるのが、外が寒いから牛舎のカーテンを閉め切る事例。確かに寒くなくなるけど、密閉された牛舎内で呼吸器病が爆発的に増えた報告があります。もちろん同じような事例を小生も経験しています。エアーサンプラーという空気中の細菌等を集める機械を使って調べてみると、恐ろしいほどの細菌が空気中にいることがわかります。

 空気は目に見えません。だから「空気が問題として認識されない」ことがかなりあると思います。しかし調べてみるととんでもなく汚れている事例が多々あります。外のきれいな空気の環境ではほとんど菌が生えてこないのですが、空気が汚れているところはビックリするくらい細菌が生えてきます。牛舎内の空気ってこんなに汚かったんだと改めて認識が変わります。

 エアーサンプラーで細菌やマイコプラズマは検査できるのですが、ウイルスを調べた結果を小生は読んだことはありません。covid-19が空気中で3時間生存しているのなら、当然牛さんのウイルスを含むいろいろな病原性微生物もしばらくの間生きていると考えたほうがよさそうですね。外が寒くても、畜舎の寒気はまめにしたいですね。今は空間消毒設備などもありますので、こちらもうまく使ってみてもよいと思います。新鮮できれいな空気はとても大切です。

 プラスチックも非常に重要なポイントですね。こちらに関しては牛さんがよく口にするバケツがポイントです。例えばハッチの呼吸器病やマイコプラズマに感染した牛さんが使ったバケツやその中に入っている餌や水。ウイルスの検査をしたことはないのですが、マイコプラズマはしっかりとれます。飼槽、敷料、麦稈などからもとれます。これらのものを触った手でほかの牛さんに触れたりすると簡単に水平感染が広がります。もちろん群飼をしている場合は簡単に感染が成立します。

 ちなみにヒト様のRSウイルスですが、手の表面では1時間、ゴム手袋で5.5時間、ティッシュで1時間、布で2.5時間生存しているという報告があります。ゴム手袋をつけていても、しっかりとその上から消毒するか、付け替えることが大切です。マスクももちろん大切ですが、やはり基本は手洗いであることを再認識しました。

 「 見えないものをみる 」

 本当に大切なことです。確か有名な本の中に「大事なものは目に見えない」という言葉がありましたが、病原性微生物だけでなく人の気持ち、世の中の流れなども大切です。これからも頑張って見えないものをみていきたいと思います。

今週の動画
 「 子牛の糞便検査 ケース2(前編)
        Cattle’s Fecal Examination Case2 First volume 」

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