(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
池田哲平のコラム
「牛の解剖60: 第四胃(4) ~新生子ではまた違う~」

コラム一覧に戻る

2010年11月5日

 このように、仔牛と成牛の第四胃では分泌される酵素の中身が違っているのです。しかし、生まれてすぐの仔牛に限って見てみると、また違ったことになっているんです。どういうことかと言うと、生後24時間以内の新生子では胃酸や消化酵素の分泌というのはほとんど行われておらず、消化が行われない状態になっているのです。じゃぁ飲んだミルク、特に仔牛にとって最も大切と言われている初乳はどうなるの?というと、実は消化されないんです。正確に言うと、消化はされないんですが、でもちゃんと吸収はされるのです。以下で詳しく説明します。
 ウシは、ヒトの様に生まれる前に胎盤を通じて免疫抗体を母体から受け取るということができませんが、その代わり、初乳にだけ特別に免疫抗体が入っています。免疫抗体もタンパク質の一種なので、第四胃の酵素によって消化されるとその効果が無くなってしまいます。初乳を飲んでせっかく得られた免疫抗体が壊れないように、初乳を飲む間だけはまだ消化酵素はほとんど分泌されないようになっているのです。そして、消化されないままの大きなタンパク質である免疫抗体は、これまたこの時期だけ特別に、腸でそのまま丸飲みされるかのごとく吸収されるのです。これを飲作用(ピノサイトーシス)と言います。飲作用のおかげで、本来なら消化を受けて小さなアミノ酸やペプチドにならないと吸収できないようなタンパク質も、そのままの形で吸収できるのです。
|