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池田哲平のコラム
「牛の解剖59: 第四胃(3) ~仔牛時代の大事な酵素~」

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2010年10月29日

 第四胃で産生される酵素には、前回紹介したペプシノーゲン以外に“キモシン”と言うものがあります(“レンニン”あるいは“レンネット”とも呼ばれます)。我々がチーズを作る時には欠かせないものなんですが、このキモシン、実は仔牛の時期の第四胃でしか産生されないとても大切な酵素なんです。
 生まれたばかりの仔牛は各臓器が未発達で、食性も大人のウシとは全く違います。硬い繊維の塊である粗飼料や、微生物発酵によってどんどんVFAに変わっていく濃厚飼料などは当然食べないですよね。赤ちゃんの食事と言えばミルクです。このミルクをちゃんと消化して吸収できるようにするのがキモシンの役目です。
 ミルクの中の蛋白質はカゼインと言う種類の蛋白質がほとんどで、カゼインは前回紹介したペプシンという酵素では消化できないのです。キモシンはこのカゼインを消化するための酵素であり、ミルクを飲んでいる期間(哺乳期)にしか分泌されません。離乳して食べるものが変わってくると、第四胃での酵素分泌のバランスも変化します。キモシンは徐々に分泌されなくなり、最終的にはほとんどペプシノーゲン(ペプシン)だけになります。
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