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蓮沼浩のコラム
第599話:オーストラリア肉牛産業事情視察 その5

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2019年12月26日

 オーストラリアでは依然として旱魃がつづいており、水泥棒も出てきているようです。事態は一向に改善していないようです。大変です。当たり前すぎて忘れてしまいがちになりますが、安心して飲める水が豊富にあるということは本当にありがたいことですね。

 今回はオーストラリアの子牛の去勢・除角や牛さんの病気について紹介してみようと思います。まず去勢は基本的に生後2ヶ月でイージーカッター(リング去勢)を用いて実施しています。除角に関しても角が生えてきた時点で実施するようです。除角は早ければ早いほど良いと話していました。

 子牛や親牛の疾病について聞くと、間髪入れず「ほとんど病気がでることはない」と即答でした。これは今回お邪魔させてもらった牧場では全員「病気はでません」と即答していたので、本当に病気がでることは少ないと思われます。F1の病気が少ないのはわかるのですが、和牛も病気がでないのは本当にうらやましいです。気候と環境が大きく影響しているのかもしれません。しいて言えば肺炎はあるそうですが、非常に少ないようです。また、ごくまれにBlack leg(ブラック・レッグ)という病気が発生するそうです。このBlack legとは日本では気腫疽といわれている届出伝染病になります。

 疾病はほとんどありませんが、ワクチンだけは打っています。どんなワクチンを打っているのか非常に興味があったのですが、何とクロストリジウムとレプトスピラが合わせて7種類入っている混合ワクチンだけ接種していました。肺炎とか下痢のワクチンは全く打っていませんでした。日本とは全く違いますね。レプトスピラは性感染症です。いわゆる牛のSTD(Sexually Transmitted Disease:性行為感染症)になります。放牧でなおかつ自然交配を実施しているので、予防しなければ牛群に爆発的に広がり大変なことになってしまいます。日本では人工授精をほとんどのところで行っているので、あまり意識はしていませんが、自然交配であれば重要な疾病になりますね。


これが唯一打っているワクチンになります。日本とはワクチンのターゲットがちょっと違いますね~~。

今回話を聞いていて驚いたことがあります。「オーストラリアではアニマル・ウェルフェアに関してどのように取り組んでいるのですか?」と質問したところ、神妙な顔をされて以下のように話してくれました。

 「本当に、アニマル・ウェルフェアに関しては牛たちに申し訳なく思っている。十分な量の水を飲ませたり、しっかり牧草を食べさせてあげたりすることができていないんだ。だから今は頭数を減らして何とかしのいでいる状態だよ」

 つまり、オーストラリアの農家さんにとって一番の問題はアニマル・ウェルフェアのトップに来る「飢え、渇き及び栄養不良からの自由」という項目がしっかりと守ることができていないことになっていました。日本だと去勢や除角の時期、飼育密度等について色々と議論していましたが、オーストラリアでは何と「命の根源にかかわる問題」が横たわっていました。本当に旱魃は恐ろしいです。

今週の動画 「日本へ輸出する前のF1子牛 F1 calves before export to Japan.」

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