(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
池田哲平のコラム
「牛の解剖43: 食道(3) ~自分で動かせる~」

コラム一覧に戻る

2010年7月2日

 ウシを始めとした反芻獣の場合、食物の完全な消化には“反芻”がなくてはなりません。反芻とは、口の中で咀嚼された食物が食道を通って反芻胃に送られたのち、再び口の中に戻されて再咀嚼される過程のことをいいます。ウシがリラックスしている状態ほど、この反芻行動がよく見られます。実はこの反芻、非常に理にかなった発達を遂げた食道のおかげで成り立っているのです。
 食道には前回までに紹介したとおり2層の筋層があります。反芻獣の場合、この筋層が食道の全長にわたって動物自身が意図的に動かせる筋肉(随意筋)で構成されています。つまりウシなどの反芻獣は、口から胃へと食物を普通に送ることはもちろん、胃から口への食物の逆流(いわゆる“吐き戻し”)も自身の意思で出来るのです。逆に、このようなことが出来ない動物にはウマやブタがいます。ウマやブタは胃と繋がる部分辺りの食道の筋肉が自分の意志では動かせない筋肉(不随意筋)になっています。ですので、ウマやブタが食物などを「吐く」というのは生理的に異常な状態であり、重大な疾病に罹っていたり、食物中に異常物がある可能性があります。
|