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笹崎直哉のコラム
泌乳とホルモン

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2019年12月10日

 先日農家さんのお孫さんが餌やりの手伝いをしていました。「お休みの日に偉いね~」と話しかけると「さっき牛さんが舌をたくさん動かしてたんだけど、なんでかな?」と質問されたので「エサが足りなくて欲しがっているんだよ」と答えると「ピンポーン。すごいね。」と言われました。まさか出題されていたとは思いませんでした(笑)。牛さんの表情をしっかり見ながらエサを与えていたのでしょう。改めてもう一度「偉いね~」と伝えた笹崎でした。

 さて今回のテーマは牛さんの泌乳とそれに関わるホルモンのお話です。皆さん知ってのとおり体の恒常性は神経系やホルモン(内分泌系)の働きによって調節されています。ではいろいろあるホルモンの中で泌乳と関係のあるものは何でしょう。脳下垂体から分泌されるプロラクチンとオキシトシンの2つが挙げられますね。どちらも子牛の吸乳行動や酪農家さんであれば搾乳時の乳房刺激が起点となって分泌されます。

 プロラクチンは脳下垂体の前葉から分泌され、催乳ホルモンとも呼ばれます。乳腺細胞を刺激して、乳汁の生成を促進します。簡単にいうと「ミルクを作ってねー」と指示してくれるホルモンです。でも作られていくばかりでは乳房がパンパンになってしまいます。ここで登場するのがオキシトシンです。オキシトシンは脳下垂体の後葉から分泌され、別名で射乳ホルモンと言われます。その名のとおりオキシトシンは乳腺の筋肉を収縮させて、乳汁の排泄を促します。子宮の収縮作用もあるので、分娩のときにも活躍しています。

 でもプロラクチンは母牛の発情を抑えるホルモンでもあります。排卵が抑制されてしまうので、自然哺育だと分娩後の母牛の発情回帰が遅れる傾向にあります。その対策として人工哺育に切り換える方法がありますが手間、スペース、コスト等の問題で安易にできません。そこで代案として登場するのが「制限哺育」です。子牛の飲乳回数を抑えてプロラクチンの分泌量を減らしましょうといった方法です。

 分娩間隔を短くすることは繁殖農家さんが常日頃から抱えているテーマだと思います。そのために母牛の給与飼料を見直したり、ホルモン剤の投与等を試す方もいますが、子牛の哺乳スタイルに目を向けるのも分娩間隔短縮のカギになってきますよ~。

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