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松本大策のコラム
肺炎?ダースベイダー?

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2019年12月2日

 診療先やコンサルテーションの巡回中などに「先生、この牛は息をするとき、ズーズーとダースベイダーみたいな音がするのだけど…。」という相談を受けることがしばしばあります。みなさんは経験がありませんか?

 牛のいるマスの外からでも聞こえてくる苦しそうな呼吸音。音ですから文字で表現するのは難しいのですが、「ズーズー」とも「シュゴーシュゴー」とも聞こえる不気味な呼吸音です。

 畜主さんもとても心配して「肺炎がひどいみたいだけど、治るんだろうか?」と相談なさいます。あるいは、若い獣医さんから「呼吸音がひどいのですが、何度治療しても治りません。」との相談を受けることも何度かあります。どういう治療をなさったのですか?と伺うと「抗生物質を3日ほど続けて、治まらないので別の抗生物質を使って、デキサも使って..。」と、肺炎の治療としては的を射た答えが返ってきます。

 しかし、この病気は肺炎ではありません。不思議なことに食欲もさほど低下しません。実はこの病気は「肥厚性鼻炎」といいます。鼻の穴の粘膜が炎症で腫れて鼻息が通るたびに、厚くなった粘膜が振動してダースベイダーのような大きな呼吸音に聞こえるのです。 そして、なかなか抗生物質やデキサメサゾンの全身投与(ここでは注射のことですね)を行っても改善してくれません。

 先日も、あるコンサル先でこの病気に遭遇しました。畜主さんも心配しています。とりあえず、体温や肺の音、第一胃の動きなどを診察して、ほかの病気がないことを確かめた後に「50mlのシリンジ(注射器のことです)と、人工授精の時に使うシース管を貸していただけますか?あと、アンピシリンとデキサメサゾンを1mlずつシリンジで吸って温めた生理食塩水で50mlに薄めてください。」とお願いしました。
 このアンピシリンとデキサメサゾンと生理食塩水の入った注射器にシース管を15cmくらいに切って(シース管は、できれば両側に穴の開いたタイプが望ましいです)取り付けます。シース管はちょうど普通の注射器の口先と同じ太さで、きっちり挿すことができるんです。
 このシース管を牛さんの鼻の穴に入れて、薬液で洗ってあげます。大抵は両側性なので、左右の穴とも洗います。これを二日くらい続けると不思議なほど治ってくれます。

 鼻炎ですから、さほど心配はいらないのですが、やはり畜主さんの心配は取り除いた方がいいですからね。ただし、「肥厚性鼻炎」の症状に気をとられてほかの疾病を見落とすことがないように、十分気をつけましょう。

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