(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
伏見康生のコラム
「NO.167 「奇跡のクリスタル」」

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2012年1月18日

 「せんせ〜、なんか牛のオシッコするところが腫れてるんですけど〜」
という稟告を受ければ、みなさんはどんな病気を想像するでしょうか??

 診療獣医師が個体診療をする際、多くは農家さんから稟告を受け、そこから考えられる疾病をあらかじめ想像しおおよそのフィルターをかけ、現場に到着してから診察・検査をして確定診断に至るというパターンがもっとも多いと思います。
 例えば「大きな肥育牛が片方の鼻から出血が止まらないんですけど・・・」という稟告を聞けばポールポジションで浮かんでくる疾病は「角をぶつけて頭蓋骨折でもしたかな?」という具合で、到着後真っ先に同側の角基部を触ります。このフィルターが無ければ、鼻腔内腫瘍??易出血性の血液疾患??DIC??CVCT??など、トンチンカンな迷路に自ら迷い込み、ビッグスケールな診断ミスを起こします(笑)
 経験が豊富な獣医師ほど手持ちのカードは多く、速く正確な診断から治療へと迷い無く進めることが多いです。

 一方、まったく遭遇したことのない初めての病態に遭遇したときはその患畜から得られる情報を統合し、頭の中で(ノートでいいんですけど)problem listを組み立て、list内の項目間の因果関係からストーリーを構築し診断へと導いていきます。前者の経験に頼った診断では解決できない疾病も(あるいは経験数が足りないヒトであっても)病態を理解し、正しい診断と治療へと近づいていきます。

 さて今回は、「オシッコするところが腫れている」という稟告。詳細には見てみないことにはなんともいえませんが、ポールポジションで浮かんできたカードは「包皮炎」。そのほかには「尿道破裂」「挫創・アタリ」「包皮のパピローマ」などが浮かんできます。

 ぶぶ〜ん・・・キッ 農家さんに到着して牛を枠の外から見てみると・・・はは〜ん・・・ピンポン玉大の何かがついてますね。ウンチのかたまりか、レアだけどパピローマができてるのかな??
そう思って牛をつないで精査してみると・・・!!!???でっかい尿結石!!
 ついていたピンポン玉はこれまで見た中で一番でっかい尿結石でした。ここまで成長するのにいったいどれほどの時間がかかり、幾多の落下や破壊の危機を乗り越えてきたことか・・・

 私の心をときめかせた巨大尿石は久々にウシ・アートに認定です。

 せっかくなので直検手袋に入れて持ち帰ったのですが・・・事務所に帰ったころには何かが切れたのか「いや、これぜんっぜんいらないでしょ」ということに気がつき、すぐに捨てました(笑)

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