電話をくれた農家さんまでは少し距離があったため、到着したのは電話からおよそ30分後。
急いで牛舎に飛び込み牛のもとへ行くと、農家さんが開口一番、
「先生、もう死んだと思ったぞ!」
牛を見ると・・・まだ生きている。しかし、30分もたっているのに、部屋のほぼ真ん中で右側臥に倒れたままで四肢が伸び、その足と体表がびくびくと痙攣している。呼吸も間歇性のいかにも苦しそうな状態。
・・・おかしい。これまで遭遇した肥育牛の卒倒は、転倒した位置さえ悪くなければ、転倒後ほんの数十秒もあれば立ち上がり、何事もなかったようにしているのが普通・・・
聴診では心悸亢進と異常呼吸を聴取。軽度に発熱している。皮温の不整は感じられず体表の痛覚、後肢の深部痛覚があり、尾力もある。 診察中も痙攣は続き、治まる気配が無い。とにかく正常な腹臥にしてみようと言うことになり、二人で牛の顔を持ち上げてみる。 なんとか、腹臥させると・・・今度は頭頚部が酔っぱらいのように上下左右にフラフラ。 しばらくすると、ダメな感じでまた横臥に。
これは、中枢がやられているだろうと判断。すなわち予後不良。出荷直前の牛だったこともあり、余計な手出しは無用。すぐに廃用と緊急出荷手続きをし、屠場へ向かいました。 緊急出荷に際し、私が提出した診断書の診断は・・・「ビタミンA欠乏症による不可逆性脳神経障害」
つ〜づ〜くう