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伏見康生のコラム
「NO.160 「玉腫れ その3」」

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2011年11月9日

 摘出除去した後は炎症の根本原因がなくなりますので、トラブルなく肥育されていきます。

 さて、そうして摘出した化膿性肉芽腫をメスで切り開くなどして精査してみますと、原因となった犯人が見つかることがあります。何かいろいろな原因が出てきそうな書き方をしましたが、実は私たちの中ではきっと“アレ”が出てくるだろうという目星がついています。

 それが絹糸です。

 原因として実際に出てきたことがあるのはいまのところ絹糸だけです。ここで出てくる絹糸は、去勢時に精索を縛るために使われたものです。
 絹糸は文字通り絹の糸です。あまり縫合糸について長々と詳しく書くつもりはないのですが、絹糸について簡単に説明しますと・・・古くから人医療でも獣医療でも、去勢に限らず多くの手術で絹糸は縫合糸として使われてきました。絹糸はカイコのタンパク質からできており生体にとっては非自己蛋白質ですので、組織反応性が高いです(強い炎症を起こすということ)。そのうえ、基本的に吸収されることはありません(溶ける糸ではないということ)・・・ということで、もともと炎症が起こりやすい糸なので、そこに汚染が重なったりすると化膿性肉芽腫を作ることになります。つまるところ、絹糸は手術には向いていません。それでも現在に至って使われている理由やメリットを挙げるとすれば、「歴史的なもの」「結び易い」「普及している」「安い」といったところです。

 私たちも開腹手術後の皮膚縫合などにはしっかりと締め付けができるので使い勝手がよく、1週間後には抜糸して取り去ってしまうのでよく使っています。しかし、去勢時の精索の結紮や臓器の縫合に関しては、絹糸は上記のように患畜へのメリットがないので使わず、非生物性の合成吸収糸(溶ける糸)を使います。

 旧態は日々改善され、獣医教育も進み、より合理的でメリットのある方へと変化していきますのでどんどん絹糸は使用されなくなっていくとは思いますが・・・絹糸、要注意です!!

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