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伏見康生のコラム
「NO.155 「SPAY 〜おなべちゃん6〜」」

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2011年10月5日

 ヒトの手により施術される以上、前回お話しした失敗やリスクは完全になくすということはできないものです。しかしそれを極力少なくするためにアメリカ製の卵巣摘出器「Kimberling rupp spay device」を改良し作られたのが、現在大久保先生が使用されている「モーカッター」と言う卵巣摘出器です。

 原型となる「Kimberling rupp spay device」と「モーカッター」の基本的構造と原理は同じで、いずれも膣から腹腔内へ穿孔して経直腸的に掴んだ卵巣を収納部に納め切除し、体外へ取り出すと言うものです。両者の違いは卵巣の再生と、外科的な出血等の事故の2点に焦点を当てて比較していきたいと思います。

 先ず、卵巣の再生に関して。二者は卵巣収納部(開口部)の大きさが異なります。アメリカ製は収納部が小さいため卵巣がはみ出す事があり、これが卵巣の部分切除(一部取り残し)の原因となり、結果再生率が高まります。モーカッターの収納部は大きく設計されており、ほとんどの卵巣がすっぽりと収納可能ですので、取り残しのミスが減ります。

 続いて、出血等の事故に関して。卵管・血管と卵巣を挫滅・切断する際、アメリカ製では内筒と連動しているハンドル部のレバーを回転させ、外筒と内筒の僅かな隙間にて卵管と血管を挫滅します。操作が煩雑で完全に挫滅出来ない事があるため、そのまま切除を行なっては当然激しい出血を招きます。モーカッターでは手元のハンドルを握ることで外筒と内筒の開口部が開閉する事により卵管と血管を容易にかつ確実に挫滅でき、内蔵している刃により切断します。これが出血事故の多寡に関わります。また、穿孔時に使用する尖端部の刃も必要な時だけ飛び出す隠し刃となっているので、臓器等に余計な傷をつけるリスクが減ります。

 また、手術終了後に腹腔内へ抗生物質を直接投与出来る機能が付いているのもモーカッターの特徴です。   

 これらの改良と工夫によりモーカッターは卵巣の再生や事故をアメリカ製に比べてはるかに低く抑えることに成功しました。

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