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伏見康生のコラム
「NO.133 「肉片よ・・・お前は何なんだ?(5)」」

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2011年4月20日

 「細胞質に空胞の見られる分泌細胞様の細胞」はその後の考察において杯細胞とされていました。杯細胞は気管上皮もしくは腸粘膜上皮に存在する細胞ですので、今回の症例に関しては腸由来のものと考えられます。
 線維素が出現しているのは、この肉片が生体組織の炎症による産物であることを示しています。線維素が主体であることから、炎症反応が起こった
部位を線維素が包み込むようしながら脱落したものと考えられます。
 また好酸球やリンパ球、マクロファージの浸潤もまた炎症反応を裏付けるものです。

 腸粘膜を損傷し、脱落させるほどの炎症を起こした原因は・・・同居牛もいる中での単体での発症がほとんどのパターンでしたから、食餌中の物理的刺激のようなものは考えにくいです。一般的に言われる偽膜性腸炎(抗菌薬関連性腸炎)を起こすような抗菌薬の投与はしておらず、経過・症状もまったく違います。ウイルス、寄生虫に関しても否定されています。すると・・・原因不明?

 そこで私が疑っているのが、炎症性腸疾患の一つである好酸球性腸炎です。好酸球性(胃)腸炎とは特発性の疾患で、胃、腸の粘膜に好酸球が多量に浸潤し炎症を起こすことで慢性の蛋白漏出性胃腸症をきたし、進行すれば削痩や腹水貯留などの症状を呈する疾患です。ヒト、イヌ、ネコ、ウマそして少ないながらウシでの報告が見られます。動物の種類によって症状の違いがありますが、腸粘膜への著しい好酸球浸潤が特徴であり診断基準となります。
 本症例でも組織学的検査では好酸球の浸潤が多く見られています。好酸球の増加は、通常、寄生虫感染やアレルギー反応をあらわしますが、今回の症例において寄生虫は否定されています。

 報告のある好酸球性腸炎の症例はどれも低蛋白、削痩、腹水貯留などの激症を示すものばかりで、本症例に関しては慢性下痢を繰り返すだけの比較的マイルドな症状です。よって、現段階では疑問の多く残るかなり飛躍した考察ではありますが、新しい知見、情報、検査結果等が得られた際には続報として掲載させていただき、検討を続けていきたいと思います。

(写真は、組織の写真が手に入ったらアップします。)

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